真矢ミキ主演ドラマ「さくらの親子丼」で注目 「ケーキの切れない非行少年」とは?

ライフ 2020年11月7日掲載

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「境界知能」というある種タブー視されている領域に踏み込んだドラマ

 ドラマ「さくらの親子丼」(東海テレビ・フジテレビ系土曜23:40~)は、現在放送中のものが3シーズン目となる人気シリーズだ。一貫して扱っているのは、居場所をなくした子供たちの問題。必然的に虐待や育児放棄など、重い話題を多く扱うことになるのだが、10月31日に放送された第3話では「境界知能」を取り上げた。

 粗暴でキレやすく、少年院にいたこともある隼人。この少年について、真矢ミキ演じる主人公さくらは、境界知能が原因にあるのでは、と思い至り、その考えを山崎静代演じる多喜に伝える。少年院で彼を診察した精神科医によれば、「明らかに字を書いたり、計算したりする能力が劣っている」ことがわかった。知的障害とまではいかないけれども、それに近い知能、すなわち境界知能だというのだ。そういえば、隼人はみんなで餃子作りをやった際、皮を10等分することができなかった。おそろしく不均等になってしまった(第2話)。あれも境界知能ゆえではないか――。

 この説明をするにあたって、さくらが多喜に示したのが『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治・著)だ。昨年刊行の同書は、現在60万部のベストセラーとなっている。

「この本に出てくる境界知能の子に、ケーキを3等分にするように言ったんだけど、うまく切れないらしいの。こんな感じ」

 さくらはそう言って、カバーにある不思議な“3等分”の図を見せる。隼人が10等分できないこととそっくりだ、というわけだ。そして、こう続ける。自分たちは、隼人が生まれつき障害に近いものを持っていることを前提にして付き合うべきではないか、そうでないとまた問題を起こすだけではないか……。

 実際の「ケーキの切れない非行少年」とはいかなるものか。同書から、「ケーキの3等分問題」につい説明した個所をそのまま引用してご紹介しよう。(以下、同書第2章「『僕はやさしい人間です』と答える殺人少年」より)

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 私は少年院で勤務するまでは公立精神科病院に児童精神科医として勤務してきました。色々と思い悩んだ末に、いったん医療現場から離れ医療少年院に赴任したのですが、そこでは驚くことにいくつも遭遇しました。その一つが、凶悪犯罪に手を染めていた非行少年たちが“ケーキを切れない”ことだったのです。

 ある粗暴な言動が目立つ少年の面接をしたときでした。私は彼との間にある机の上にA4サイズの紙を置き、丸い円を描いて、「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか? 皆が平等になるように切ってください」という問題を出してみました。

 すると、その粗暴な少年はまずケーキを縦に半分に切って、その後「う~ん」と悩みながら固まってしまったのです。失敗したのかなと思い「ではもう1回」と言って私は再度紙に丸い円を描きました。すると、またその少年は縦に切って、その後、悩み続けたのです。

 私は驚きました。どうしてこんな簡単な問題ができないのか、どうしてベンツのマークのように簡単に3等分できないのか。その後も何度か繰り返したのですが、彼は図2-1のように半分だけ横に切ったり、4等分にしたりして「あー」と困ったようなため息をもらしてしまいました。他の少年では図2-2のような切り方をしました。そこで、「では5人で食べるときは?」と訊ねると彼は素早く丸いケーキに4本の縦の線を入れ、今度は分かったといって得意そうに図2-3のように切ったのです。

 5個に分けてはいますが5等分にはなっていません。私が「みんな同じ大きさに切ってください」と言うと、再度彼は悩んだ挙句諦めたように図2-4のような切り方をしたのでした。

 これらのような切り方は小学校低学年の子どもたちや知的障害をもった子どもの中にも時々みられますので、この図自体は問題ではないのです。問題なのは、このような切り方をしているのが強盗、強姦、殺人事件など凶悪犯罪を起こしている中学生・高校生の年齢の非行少年たちだ、ということです。彼らに、非行の反省や被害者の気持ちを考えさせるような従来の矯正教育を行っても、殆ど右から左へと抜けていくのも容易に想像できます。犯罪への反省以前の問題なのです。またこういったケーキの切り方しか出来ない少年たちが、これまでどれだけ多くの挫折を経験してきたことか、そしてこの社会がどれだけ生きにくかったことかも分かるのです。

 しかし、さらに問題と私が感じたのは、そういった彼らに対して、“学校ではその生きにくさが気づかれず特別な配慮がなされてこなかったこと”、そして不適応を起こし非行化し、最後に行きついた少年院においても理解されず、“非行に対してひたすら「反省」を強いられていたこと”でした。

「100-7」は「3」

 こういった少年は他にも大勢いました。いつも少年たちへの面接では簡単な計算問題を出します。具体的には「100から7を引くと?」と聞いてみます。正確に答えられるのは半数くらいでした。

 多いのが「3」「993」「107」といったものでした。「93」と正しく答えられたら次は、「では、そこからさらに7を引いたら?」と聞いてみます。すると、もうほとんどが答えることができません。「1/3+1/2は?」と尋ねると殆どの少年たちが予想通り「2/5」と返してきます。

 基本的に「漢字は読めない」ことを前提に、少年院での教材には全てフリガナがついています。新聞にはフリガナは付いていませんので、新聞を読めない少年たちも多く、自由時間に新聞を順に回して閲覧できる機会もあるのですが、少年たちが見ているのはもっぱら雑誌広告欄にある女性の写真ばかり、といった状況でした。

 少年院の中ではこういった少年たちに漢字ドリルや計算ドリルをさせているのですが、大体小学校低学年レベルからのスタートです。最初から小学6年生レベルの計算ができればかなり優秀な方でした。

計画が立てられない、見通しがもてない

 ルーチンの面接の中で、少年たちにどうして非行をしたのかを尋ねてみます。するとみんな、「後先のことを考えていなかった」と、口を揃えたかのような答えが返ってきます。そして、今後の目標として「これからは後先のことを考えて行動するようにしたい」と答えます。

 この“後先のことを考える”力は計画力であり、専門用語で“実行機能”と呼ばれています。ここが弱いと、何でも思いつきで行動しているかのような状態になります。彼らは「ゲーム機のソフトを買う金がなかったから人を刺してお金を奪った」「女の子に興味があったけど同級生は怖いから幼女を触った」といった、思いつきに近い非行をやっているのです。

 たとえば、彼らに次のような質問を投げかけたとします。

「あなたは今、十分なお金をもっていません。1週間後までに10万円用意しなければいけません。どんな方法でもいいので考えてみてください」

「どんな方法でもいいから」と言われると、親族から借りる、消費者金融から借りる、盗む、騙し取る、銀行強盗をする、といったものが出てきます。「(親族などに)借りたりする」という選択肢と、「盗む」という選択肢が普通に並んで出てくるのです。「盗む」などという選択をすると後が大変になるし、そもそもうまくいくとも限らない、と判断するのが普通の感覚でしょうが、そう考えられるのは先のことを見通す計画力があるからです。

 しかし先のことを考えて計画を立てる力、つまり実行機能が弱いと、より安易な方法である盗む、騙し取るといった方法を選択したりするのです。

 世の中には「どうしてそんな馬鹿なことをしたのか」と思わざるを得ないような事件が多いですが、そこにも“後先を考える力の弱さ”が出ているのです。非行少年たちの中にも、見通しをもって計画を立てる力が弱く、安易な非行を行ってしまう少年が多くみられました。

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 ドラマに出てくる問題少年は、愛情に飢えていて、それを埋めることで更生するという展開が多いのだが、今回の「さくらの親子丼」はその定型から離れて、境界知能という特にテレビではある種タブー視されている領域に踏み込んだと言えるだろう。

デイリー新潮編集部