「西武ドラ1」“令和のドカベン”は活躍できるか…「サプライズ指名」5人の実力を診断

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 10月26日に行われたプロ野球ドラフト会議。年々、ドラフト会議に関する報道は増加傾向にあり、事前に各球団の指名について詳細な予想がされることも多くなってきた。ただ、これだけドラフト候補の情報量が増えても、毎年驚きの指名はあるもので、今年も例外ではなかった。そんな2020年ドラフト会議の“サプライズ指名”を振り返りながら、その選手の特徴、成功へのポイントなどを探ってみた。

 最初に驚かされたのは西武の外れ1位、渡部健人(桐蔭横浜大)だ。西武は最初の入札で早川隆久(早稲田大)を指名しており、抽選を外した場合は、同じ大学生サウスポーである鈴木昭汰(法政大)に向かうというのが大方の報道だった。そこから野手に切り替えたこともそうだが、それ以上に驚いたのが1位で渡部という選択そのものだ。

 渡部は、野球漫画「ドカベン」の主人公、山田太郎を彷彿させる体重100kgを超える巨漢の選手で、その体つきにしては脚力があって高校時代はショートを守っていた経験もあるが、基本的に「打撃特化型」の選手である。大学日本代表候補に選出された経験もあり、この秋には10試合で8本塁打と驚異的なペースでホームランを量産して評価を上げていたとはいえ、この順位で指名されることを予想していた人はほとんどいなかっただろう。

 このサプライズとも言える1位指名には、もちろんファンや専門家から賛否の声が上がっているが、西武というチームの特徴を考えると、決して悪くない選択だったように思えてくる。なぜなら、中村剛也、山川穂高といった巨漢の強打者タイプが大成しており、渡部もその流れに乗ることも十分に考えられるからだ。中村は大ベテラン、山川も中堅の年代に差し掛かっており、若手に強打者タイプが不足しているといったチーム事情も渡部にとって追い風となる可能性もある。中村は現役の晩年に差し掛かっているが、“3人の巨漢”が並ぶオーダーを見てみたいというファンも多いはずだ。

 続く、2位指名で驚きだったのが阪神の伊藤将司(JR東日本)とソフトバンクの笹川吉康(横浜商)だ。

 伊藤は名門・横浜高で2年時から主戦として活躍しており、国際武道大時代に大学日本代表として選出されたサウスポーだ。社会人でも1年目からエース格となっており、ドラフト候補として名前は挙がっていたが、どちらかというと、ドラフトにかかるか当落線上と見る意見が多かった。その理由の一つがストレートのスピード。最近では140キロ台後半のスピードをマークするサウスポーが珍しくないが、伊藤のストレートは常時140キロ台前半で、社会人の中でも目立つ方ではない。

 また、コントロールが抜群かといえば、昨年の公式戦では89回1/3を投げて43四死球とそこまで際立った数字を残してはいない。防御率2.42は決して悪くないが、広島1位の栗林良吏(トヨタ自動車)の1.02と比べるとかなりの差があり、社会人投手の上位指名にしては物足りないというのが現状である。

 だが、そんな伊藤の最大の武器は常に安定した投球ができるという点だ。今年は所属のJR東日本が早くからオープン戦を公開していたため、伊藤の登板を見る機会が5試合あったが、いつ見ても変わらない投球を見せていた。この安定感が評価を上げた理由と考えられる。プロの一軍相手でも同様のピッチングができるかは未知数だが、大舞台の経験も豊富なだけに意外とすんなり通用してしまう可能性もありそうだ。

 一方の笹川は典型的な未完の大器タイプ。193cm、85kgというプロフィールからも分かるように、なかなかいないサイズの外野手だが、体重の数字以上に体つきはまだまだ細く見える。打撃に関しても、バットの引きが大きくタイミングのとり方に余裕がないため、130キロ程度のストレートに差し込まれることも珍しくない。打撃技術に関しては、同じソフトバンクに3位で指名された牧原巧汰(日大藤沢)と比べても明らかに劣っている。

 筆者は下位か育成での指名だと考えていただけに、2位指名には驚かされたが、評価ポイントはその飛距離と運動能力だ。今年夏の神奈川大会1回戦では、横浜スタジアムの中段まで飛ばすなど、きちんとバットでとらえた時の打球は高校生離れしている。また、大柄の割に外野の動きは悪くなく、投手も兼任するセンスを備えている。最初は二軍や三軍でかなり苦労することが予想されるが、大化けした時には、チームの主砲、柳田悠岐クラスに成長する可能性を秘めた選手だ。

 下位指名でもサプライズがあった。それは中日6位の三好大倫(JFE西日本)とオリックス6位の阿部翔太(日本生命)だ。三好は投手として社会人入りし、4年目の昨年から外野手に転向した選手で、ここまで目立った実績を残していない。筆者が6月に行われたオープン戦を見た時も、試合途中から出場していた。この試合では、ツーベースの二塁到達で8.00秒、セカンドゴロの一塁到達で4.06秒と十分俊足と言えるタイムをマークしている。23歳だが伸びしろに期待した指名と言えそうだ。

 阿部は、大学卒5年目で今年で28歳という年齢であるため、完全にドラフトの対象になるとは考えていなかった。2017年の公式戦で素晴らしい投球を見せていたが、指名を見送られた経験がある。当時と比べても、大きく印象は変わらないが、高い水準の投球をキープできたことが評価された理由と言えそうだ。年齢を考えても1年目から勝負のシーズンとなるが、阿部が大活躍すれば、26歳以上の社会人選手に対する評価が見直されるきっかけにもなりそうだ。

 もちろん、ドラフトの順位はイコールそのまま選手の評価ではない。巡り合わせによって高くも低くもなり、入団後も順位に引っ張られるケースもあるが、最終的にはプレーで勝負する世界である。ここで紹介した選手がプロ入り後でも良い意味で驚きのパフォーマンスを見せてくれることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月29日掲載

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