『鬼滅の刃』劇場版が大ヒット、幅広いファンを生んだ巧妙な“仕掛け”とは

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キッズ人気獲得、秘密は「配信」

 作品を支えるファンの幅が広いことは、これまでも指摘されてきた。下は10代から上は50代、60代まで。特に注目されるのが、子供層への広がりである。キッズマーケットは定番キャラクターが力を持っており、参入が難しい市場とされているからだ。

 子供向けのアニメマーケットは大きな市場だが、『ワンピース』や『ナルト』、『名探偵コナン』といった何十年も続く作品が、その大半を占めている。子供が視聴出来る時間帯の地上波放送でアニメの新番組が減っており、新規参入は簡単ではない。そこに『鬼滅の刃』は食い込んだのだ。

 では深夜放送であった『鬼滅の刃』はどうやって、子供たちの心を掴んだのか。おそらく配信サービスだ。公式サイトで配信情報を見ると、20以上ものプラットフォームで提供されていることが分かる。昨今の大型タイトルは特定サービスでの独占提供も少なくないなか、『鬼滅の刃』は、視聴機会を最大限に広げることで、作品認知を高めた。子供たちは深夜の放送を見られなくても、配信で見られる。そもそも、子供たちの番組視聴の主戦場はネットに移行している。また作品の人気はアニメ放送を機に高まっていたわけだが、後から知った子どもたちがネットを通じて手軽に途中参入できたのも、人気に貢献したことだろう。

子供人気の高さは、社会現象にまでなったコミックスの売上げからもわかる。『鬼滅の刃』のような深夜アニメがこれまでに利益回収手段としてきたDVDやブルーレイは、1巻6000円から7000円と、子供では手が出しにくい。一方、原作コミックスは500円足らずで、子供にも手が届き易い。『鬼滅の刃』に関しては、いま流行の電子書籍より、紙の本の売れ行きが良いことも早くから指摘されていた。電子決済手段を持たない子供たちにとっては紙の単行本が身近だったことが、店頭品切れの真相なのだ。

 子供たちが支持する裏には、『鬼滅の刃』を“僕たちの物語”と感じたこともあるのではないだろうか。もちろん『ワンピース』や『ドラゴンボール』、『ナルト』、『名探偵コナン』といった作品も面白い。しかしそれらはお父さん、お母さんも好きだった作品だ。ひょっとしたら作品を子供たちに教えたのは親だったかもしれない。

 しかし『鬼滅の刃』は自分たちが見つけた作品である。大人から与えられるのでなく、自分たちが見つけて大人に教えてあげるのだ。

 雑誌連載は終ったが、テレビシリーズから今回の劇場映画まで、映像化されたのは20巻を超える原作のうち8巻までに過ぎない。テレビ放送か映画化は明らかではないが、今後も残りのエピソードのアニメ化は、じっくりと丁寧に進められるに違いない。

『鬼滅の刃』人気はしばらく続くことだろう。

数土直志(すど・ただし)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に国内外のエンターテインメント産業に関する取材・報道・執筆を行う。大手証券会社を経て、2002年にアニメーションの最新情報を届けるウェブサイト「アニメ!アニメ!」を設立。また2009年にはアニメーションビジネス情報の「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ、編集長を務める。2012年、運営サイトを(株)イードに譲渡。2016年7月に「アニメ!アニメ!」を離れ、独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月26日掲載

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