暴力団の主たる資金源「特殊詐欺」にオドロキ判決 背景に「警察」「民暴弁護士」の活躍

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被害者の中には裁判が進行する間に、認知症を患ったりした人も

 判決後、原告弁護団の1人は「被害者は騙されたことを悔やみ、家族内の中でも立場がなくなり苦しまれている。判決で(過失相殺)をはねのけてくれたことは、地味なポイントではあるが、被害者を責めないという意味で非常にありがたい」と語った。

 被害者の中には裁判が進行する間に、死亡したり、認知症を患ったりした人もいたという。

「泣き寝入りする必要もない。周囲から責められる必要もない」。被害者救済に取り組む民暴弁護士は熱を込めて語った。

 では今回の訴訟と判決は、特殊詐欺抑止の切り札となり得るのだろうか。

 第一に、今回の訴訟を契機に、特殊詐欺の被害者が原告となった同様の「組長訴訟」が、全国で7件提訴されたことは大きな前進と言えよう。

 本稿の訴訟の元となった住吉会による特殊詐欺事件の関連では、事件化されなかった被害者42人が、賠償金7億円超を求める訴訟を17年6月に東京地裁に提起している。

 既に審理は終わり12月に判決が言い渡される予定だが、刑事事件で立件されなかった詐欺の賠償が認められれば、暴力団組織の資金源を絶つ上で画期的な効果を発揮するだろう。

 暴力団側に与える心理的影響も小さくない。

 住吉会の総本部は19年2月、特殊詐欺を巡る組長訴訟が相次いでいることを受け下記の通達を出した。

《新年度は破廉恥な詐欺犯罪を無くして頂くことをお願いします》

《特殊詐欺の使用者責任として、亡総裁西口茂男親分、関功会長、福田晴瞭特別相談役の3氏に対し、訴訟を起こされ裁判係争中ですが、亡総裁に対しては、その遺族にまで訴訟が及んでいる次第で御座います》

《敗訴となればその事件の当事者である各組織の責任者にすべての責任を取って頂く事になりますのでどうか各一家各会の責任者の方々は、1人1人にしっかりとした教育指導をして頂き新年度は破廉恥な詐欺犯罪を無くして頂くことをお願いします》

 同じく関東の主要団体である指定暴力団・稲川会も今年5月、最高幹部の名義で配下の組員らに特殊詐欺を「厳禁」と通達している。

 暴力団対策を専門とする捜査員は「特殊詐欺だけでなく、覚醒剤だって『任侠道にもとる』と公には認めていませんが、どの組織だってシノギの一つ。上層部の賠償責任を問われないように予防線を張っているのでしょうが、こんな通達を出す時点で、組長訴訟が暴力団組織に打撃を与えているのは明らかです」と解説する。

 今回の組長訴訟は、被告側の控訴により、今後、東京高裁に移審する。

 今回の訴訟の弁護団は一刻も早く賠償金が支払われ、早期の被害回復ができるよう「あらゆる手段を尽くす」との方針を示している。

 卑劣な詐欺に遭い人生を台無しにされた被害者を救済すると同時に、組長に莫大な金銭的責任を負わせて資金源の芽を摘んでいく――。特殊詐欺との戦いは続く。

週刊新潮WEB取材班

2020年10月18日掲載

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