暴力団の主たる資金源「特殊詐欺」にオドロキ判決 背景に「警察」「民暴弁護士」の活躍

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「詐欺グループ内での暴力団の威力」の利用が突破口に

 警察当局が暴力団組織と特殊詐欺の関係に大規模なメスを入れたことを受け、行動を起こしたのが一般人や企業の暴力団被害(民事介入暴力)の救済を専門とするいわゆる「民暴弁護士」たちだった。

 2008年5月に改正暴対法が施行され、指定暴力団の組員が「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」で他人の生命や財産を侵害した場合、暴力団の代表者に賠償責任を負わせられるようになった。

 かみ砕いて言えば、“チンピラ”レベルの下っ端が居酒屋やクラブから“みかじめ料”を脅し取った場合でも、“組の看板”を利用したと認められれば、直接はその行為に関わっていない「組長」まで、賠償金を支払わなければならないと規定したのだ。

 実際、暴対法の改正を機に、抗争事件の被害者遺族や、みかじめ料を脅し取られた被害者らが裁判を起こし、組長などに賠償金の支払いが命じられるケースが相次いだ。

 民暴弁護士たちはこの「組長訴訟」の流れを、特殊詐欺に拡大しようと試みたのである。

 もっとも、そこには越えなければならない高いハードルがあった。

 例えば、みかじめ料を脅し取る恐喝事件であれば、組員は“●●組のモンやけど……”など、直接“組の看板”を示して金を脅し取る。一方、特殊詐欺では、組員らが被害者に「暴力団だ」と名乗ることはありえず、暴対法の規定をそのまま当てはめることが出来なかったのだ。

 話し合いを重ね導いた答えは、「詐欺グループ内での暴力団の威力」の利用だった。

 民暴弁護士らが注目したのは、前述の特殊詐欺事件の捜査の過程で、組員ではない複数の詐欺グループのメンバーが「グループを抜けたら家族が暴力団から危害を加えられると思い指示に従った」と供述していた点だ。

 暴力団が背後にいる特殊詐欺では、組の名前を出して報復をチラつかせることにより、メンバーが詐取金を持ち逃げしたり、グループから離脱したりすることを防いでいたのだが、それを“暴力団の威力を利用した”と構成したのだ。

“騙された方にも非がある”と言わんばかりの主張は一刀両断に

 こういった暴対法の解釈を柱に、2016年6月、全国で初めて特殊詐欺の被害者が原告となり、「組長訴訟」が起こされたのである。

 それから4年あまりを経て下されたのが、本稿冒頭の東京地裁の判決だ。

 判決は訴訟の元となった特殊詐欺事件の構図について、住吉会傘下の2次団体から4次団体の組員が中心となり、「(暴力団組織内部の)絶対的服従関係を背景として実行された」と指摘。

 さらに、組員らが暴力団構成員であると示しながら、組員ではない実行犯に対し詐欺に使う他人名義の携帯電話の調達や架空会社のパンフレットなどの作製を命じたり、詐取金を受け取る「受け子グループ」に仕事の指示を出したりしていたとして、住吉会の外部の関係者にも同会の威力が利用されていたと認定した。

 つまり、弁護団が特殊詐欺の組長責任の柱とした、「詐欺グループ内での暴力団の威光の利用」が全面的に認められたのだ。

 裁判では、被告の住吉会側も徹底抗戦を試みた。

 被害者側に過失がある場合、賠償額が相殺される「過失相殺」の主張を展開。

「原告らは(被害に遭った)当時、相応の社会人経験や判断能力を有していたが、現金を送付する際、現金送付が禁止されているゆうパックを利用し、品目を食品や書類などと偽って申告した」などと指摘し、原告側にも過失があり賠償金と相殺されるべきと求めていたのだ。

 ところが東京地裁は、この“騙された方にも非がある”と言わんばかりの身勝手な主張を一刀両断に退け、被告側の主張が認められることはなかった。

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