文豪ヘンリー・ミラー、イタリア大富豪…国際結婚した日本人女性の悲劇

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検事が“シニョーラ・ヨーコは遺言状を偽造するような女性ではない”

 ところが、

「遺言状には、イタリア語でたった7語しか記されていなかった。“包括相続人として、わが妻を指名することを誓う。レンツォ・チェスキーナ。”それだけです。これを見た甥のリカルドは、遺言状は洋子が偽造したもので、無効だと主張したのです」(『ガッゼッティーノ・ディ・ヴェネツィア』紙のキアラ・パヴァン記者)

 この告発により、6年に及ぶ泥沼の裁判闘争が始まる。

 洋子も負けてはいなかった。

 夫の遺産はもちろん、義弟の遺産も半分は自分に相続権があると主張、2000億リラ(約214億円)と推定されるマリオの遺産の差し押さえを裁判所に申請。

 と、リカルドも推定1000億リラ(約107億円)のレンツォの遺産について同様の手続きを取って対抗した。

 甥の申し立てにより、検察は3人の専門家に筆跡鑑定を依頼したのだが、鑑定の結果はクロ。

 遺言状は偽造されたものとされ、検察は洋子を詐欺などで起訴、各紙が「シンデレラ疑惑」と報じる一大スキャンダルとなった。

 筆跡鑑定がクロなら敗訴が決定したも同然だが、そこはやはりイタリアである。途中で鑑定結果は誤りとされ、洋子は無罪判決を勝ち取る。

「彼女の落ち着き払った法廷での態度が好感を持たれ、世論も次第に彼女に同情的になっていったんです」

 と、邦人ジャーナリスト。

「誰の目にも詐欺を働くような女性には見えなかったし、判決の直前には起訴した検事までが、“シニョーラ・ヨーコは遺言状を偽造するような女性ではない”と言い出したので、無罪になることは分かっていました」

ベラスケスなどの絵があちこちにあって、まるで美術館の中にでもいるような感じ

「そもそもこちらの法律では遺言状がなくても財産の3分の2は妻のものになるんです。彼女の資産は10年前に約600億円と報じられたんですよ」

「3分の2でも十分なのに、わざわざ偽造して全てを失うような真似をするわけがない。どんな筆跡鑑定が行われたのか、逆に疑問です」

 洋子が住むバルバリーゴ館内の邸宅は想像を絶する代物だ。建物それ自体が文化財であり、ベニスを舞台にした映画には必ず登場する。

「ベラスケスなどの絵があちこちにあって、まるで美術館の中にでもいるような感じ。とてもクラシカルなエレベーターがあるのですが、これがまた広くて、エレベーターの中に住めるんじゃないかと思うほどです」

「ミラノやローマ、ソレントにも素晴らしい別荘を持っています。チェスキーナ洋子は、イタリアでは“あの”という形容詞がつくほどの伝説的な女性です」

 親友であるバルバラ公爵夫人の話。

「洋子がいかに寛大な心の持ち主かを示すよいエピソードがあります。マリブラン劇場にジュゼッペ・ケルビーニが描いた舞台幕があるのですが、それを即刻修復しなければならないということになりました」

「その時、洋子は一瞬のためらいもなく立ち上がり本件は私が責任を持って何とかしましょうと言ったのです。有言実行。すぐに幕は元通りの素晴らしい姿を取り戻し、劇場に復活したのでした」

 何だかよく分らないが、600億もあれば、俺たちだって、そのくらいの寛大さは示しますよ、公爵夫人。

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