“猛獣使い”安倍総理の外交手腕 中国の「歴史カード」を無視、今後の課題は

国際 中国 週刊新潮 2020年9月10日号掲載

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〈私の素晴らしい友人に最大限の敬意を表したい。彼をとても気の毒に思う〉

 トランプ大統領は、安倍総理の辞任表明を受けてこう語った。暴言王らしからぬ神妙な言葉には、“シンゾー”“ドナルド”とファーストネームで呼び合ったふたりの親密さが窺える。

 政治部記者が言う。

「安倍総理は“地球儀を俯瞰する外交”を掲げ、トランプ大統領やロシアのプーチン大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領といった強面な首脳たちと会談を重ねてきました。とりわけトランプ大統領は、G7など国際会議の場でも安倍総理の言葉には熱心に耳を傾けていた。トランプの真意を探りたいドイツのメルケル首相などに頼りにされ、“猛獣使い”と評価されたのも頷ける話です」

 その手腕は厄介な隣国の首脳に対しても発揮されたという。コロナ禍の元凶でありながら早々に自国だけ終息を宣言し、ここぞとばかりに世界覇権を狙う中国の習近平国家主席である。

 産経新聞の矢板明夫台北支局長によれば、

「第2次安倍政権が発足したのは尖閣諸島を国有化した直後で、日中関係が最悪のタイミングでした。そうしたなか、中国は日中首脳会談を行う条件として“尖閣諸島の領土問題を認める”“首相が靖国神社を参拝しない”という2点を強硬に迫りましたが、安倍総理は無視を決め込んだ。これに中国側は動揺しました。得意の歴史カードを切ったのに安倍政権には全く通用しなかった。結局、2年後に中国が折れる格好で首脳会談が実現したのです」

 また、日米同盟の強化に努めた点も大きかった。

「日米関係を分断して日本に対して有利な立場をとるのが中国の常套手段ですが、安倍・トランプの関係は中国につけ入る隙を与えませんでした。次期総理に求められるのは、やはりアメリカとの結びつきを強め、歴史問題を再燃させないこと。香港や南シナ海、台湾への言及を続けて強気の対中姿勢を示すことです」(同)

 一方、中国問題グローバル研究所の遠藤誉所長からはこんな指摘も。

「日本が降伏文書に調印した翌日の9月3日を抗日戦争勝利記念日と定めるなど、習近平政権の対日政策は一貫して“反日”でした。ただ、2017年にトランプ大統領が就任し、米中摩擦が激しくなると一転、日本に歩み寄りの姿勢を見せるようになります。すると、安倍総理は中国の肝煎り政策“一帯一路”に協力姿勢を示し、さらに習近平を国賓として招くことを決めたわけです」

 遠藤氏はこれが“失敗”だったと語る。

「国賓待遇で訪日すれば天皇陛下に拝謁することができる。目下、コロナの感染拡大や香港での人権弾圧で国際的な非難を浴びている習近平は、それを免罪符にしたいと考えているのです。次期総理は安倍総理の退任を理由にして、コロナで延期されている習近平の国賓来日を断わるべきです。次期総理が中国の戦略に嵌って、いいように利用されないことを願っています」

 友好を唱えるだけでは、権謀術数に長けた“猛獣”とは対峙できない。とはいえ、日本経済にとって中国市場も重要。「右手で握手しながら、左手で殴り合う」難しい外交が求められるのだ。

特集「日々没する国ニッポン『菅義偉』総理への道」より