設定がナゾすぎる「実演CM」はなぜ生まれる? 元広告マンが分析(中川淳一郎)

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 先日、仰天の「生コマーシャル」を見てしまいましたよ。この「生コマ」ってのは、朝の情報番組でエプロンつけたお姉さんが登場して、「この洗剤、本当に汚れが落ちるんですよ~」とか実演するアレですね。

「困っている中年女性」が出てきたらこのエプロンお姉さんが「だったらコレ!」とやるのが私のイメージですが、先日の仰天生コマは設定がすごかった。

 リモート会議のシーンなんでしょう、左側に上司風の男性が机でパソコンを開いていて、右側に部下風の男性が同様にしている。部下は生コマ開始直後から苦悶の表情を浮かべ、ソワソワしている。上司が「どうしたんだい?」と聞くと、ウンコが我慢できないようです。部下はさらに苦しそうになるのですが、上司が涼しげな顔で「そんなときはコレ!」と取り出したのが「ストッパ下痢止めEX」(ライオン)です。

 普段のCMでは、電車の中で突然便意に襲われたお笑いコンビ・サバンナの高橋茂雄が「水なしで飲める」がウリの同錠剤を飲み、便意が止まって窮地を脱するという展開です。見たことがある人もいるのでは。

 どうやら生コマの上司はいつもこの錠剤を持っているようです。でも、これって完全にパワハラでしょう。会社で会議していても猛烈にウンコしたくなったら、「す、すいません、トイレ行ってきてよろしいでしょうか」「おぉ、急げ!」ってなりますよね。でもリモート会議だとウンコに行くのはダメってことですか? 電車の中ならさておき、すぐ近くに便所あるのに薬で無理矢理止めろって、そりゃないでしょうよ!

 最終的に上司は「今日は仕方ないな」と部下に便所行きを許可するのですが、次からは「ストッパ」を用意するよう伝えます。こんな上司がいるような会社、転職したくなります。

 こうしたCMを見た時に勝手に想像してしまうのが、ライオン宣伝部でのやり取りです。

「リモートワークだと電車乗らないよな……」

「だったら、大事なリモート会議中の便意ってどうっすか!」

 かくしてこの生コマが完成したのではないかと。さまざまな設定を考えるのは宣伝マンの使命ではありますが、さすがに無理すぎないか? 通常バージョンでは最後に高橋が「受験にも!」と学生服姿で提案していましたが、コレは分かる。

 リモート会議編が気になり過ぎたのでYouTubeのライオンのチャンネルを見たところ、同様の生コマで「登山編」というのがありました。

男「山で急にお腹がぎゅるぎゅるきたら」

女「あ~困りますよね」

 ここまでは理解できます。しかし、次の展開でやっぱりズッコケた。

男「水なしで飲めるんですよ!」

女「飲み水が貴重な山では助かりますよね」

 いや、飲み水が貴重なのは分かるけど、野グソすりゃいいでしょう。大体下痢なんてものは、身体の中の悪いものを出す役割があるんだからサッサと出しなさい! そうしないと中学2年生の時、学生服の中に盛大にウンコをもらしてしまった私のようになります! そんな話を新著『恥ずかしい人たち』(新潮新書)には書いておきました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2020年9月10日号掲載

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