「リニア中央新幹線」…JR東海と静岡県との対立から鉄道のトンネルとは何かを考える

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どのようなトンネルにも必ず存在するものとは何か?

 開削トンネルは地質にあまり左右されないが、上から掘るので適用できる場所は大多数が地下トンネルに限られてしまう。

 珍しい例として、トンネルの上に土があまりない場所を無理に掘ると山を崩す恐れがあるため、山の上から穴を掘り、内部に馬蹄形のトンネルを築いた後に埋め戻したトンネルがある。

 東北新幹線の八戸(はちのへ)駅と七戸十和田(しちのへとわだ)駅との間にある長さ625mの上北(かみきた)トンネルだ。このトンネルは八戸駅から12番目、七戸十和田駅から2番目のところにある。

 今度はどのようなトンネルにも必ず存在するものを紹介しよう。そのあるものとは何かおわかりであろうか。照明装置、非常口、待避用の空間……。答えは勾配、つまりトンネルの中の線路は坂となっているのだ。

 なぜトンネルに勾配が存在するのか。冒頭に挙げた大井川水資源問題からピンと来た人もいるのではないだろうか。そう、理由は湧き水を流すためである。山岳トンネルでは入口に向けて、海底トンネルや地下トンネルでは地上に汲み上げるためのポンプのある場所に向けてトンネルには下り勾配を設け、湧き水を外に排出しているのだ。

 大井川水源問題について筆者の考えを述べていなかった。率直に言うと、解決にはまだ時間を要するであろう。この問題がこじれてしまった要因の一つは静岡県がJR東海に対して不信感を抱いているからだ。俗に言う「政治的な決着」を望む声ももっともであろう。

 しかし、だからこそ科学的な根拠をもとに南アルプストンネル内の湧き水の量を正確に推測できるようになるのを待ったほうがよいと筆者は考える。いつか科学の力で無事に解決し、両者の間のわだかまりもそれこそ水に流せる日が訪れるよう祈りたい。

梅原淳
1965(昭和40)年生まれ。三井銀行(現在の三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て、2000(平成12)年に鉄道ジャーナリストとしての活動を開始する。著書に『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)ほか多数。新聞、テレビ、ラジオなどで鉄道に関する解説、コメントも行い、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談室」では鉄道部門の回答者を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月10日掲載

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