「金正恩はニセモノ…」北朝鮮史上最も反動的な怪文書が同時多発的に投げ込まれた!

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日本からの帰国同胞を差別する階級政策を行なってきたが

 北朝鮮の党と国家は長期間にわたり、裏で日本からの帰国同胞を差別する階級政策を行ってきました。帰国同胞らを幹部候補から徹底的に排除してきたわけです。

 怪文書をバラまいた犯人は、金正恩の出生の秘密を暴露しました。帰国同胞の子供・金正恩が自分たちの統治者になったことについて頑として拒否し、彼の統治を否定しているのです。

 実際に北朝鮮は、日本からの帰国同胞出身者たちを資本主義に染まった金の亡者、北朝鮮に資本主義を蔓延させる資本家の手先になる可能性がとても高い、要監視対象として国民に意識させ、教育を通じ帰国同胞たちに対する反感を持つように仕向けたのです。

 こうして帰国同胞は「信じてはならない連中」というイメージを北朝鮮当局によって長期間にわたって植え付けられてきました。

 金正恩による10年にわたる統治。この間、核開発を主導してきた幹部たちと少数のエリートたちは優遇されていましたが、大多数の住民たちの飢餓と貧困はより深刻になりました。生存が脅かされ、我慢しようにも我慢できない状況ができあがっていったのです。

 金正恩は北朝鮮の金鉱をはじめ、外貨稼ぎの事業を徹底して独占し、その金で水素爆弾、長距離ミサイルなどを作り、担当した少数のエリートたちには超豪華な住宅を建ててやるなど、ありとあらゆる報奨を与えました。

 金正恩は外国留学時代に楽しんでいたプール、乗馬場、射撃場、スキー場、スパをあちこちに作りましたが、それの施設は当座の米を買う金すらも稼ぎ出せずにいる。

 消息筋はこう伝えています。「現在、全国にあふれている浮浪児らと、家まで売って食いつないでいる地方都市の住民たちは糊口をしのぐ手段すらなく、山奥まで押し寄せている」

 彼らはそこで山菜を掘ってしのいでいるが「都市に残って餓死するよりマシ」だという。

「彼らは英雄・林巨正の生涯を描いたドラマの歌を歌いながら、新しい世界が来るのを待ち望んでいる」と。

監視カメラが捉えきれない投書箱に投げ込まれ、捜査は難航

 この事件が明るみに出て、中央機関の党秘書と保衛省には戦慄が走ったようです。

 怪文書の犯人を捕まえるために血眼になっているものの、犯人のやり口が非常に手馴れており、捜査が難航しているとも伝えられています。

 怪文書の文章は新聞から一文字ずつ切り抜いて作られており、最後の日付だけが漢字で手書きです。

 それは今までの怪文書のスタイルとは全く異なり、捜査機関をもてあそぼうという意図も感じられます。

 国家保衛省は、平壌市民やすべての新聞社の従業員たちを対象に、怪文書にある日付を漢字で書かせるというコメディのような捜査まで展開しました。

 怪文書は各中枢機関の投書箱に投げ込まれたのですが、北朝鮮では一部組織を除いて監視カメラが設置されていません。犯人はもちろんカメラが捉えきれない投書箱を選んでいます。

 そのため投書箱に投げ込まれた日付すらわからないというお粗末さ。笑いを誘うのは、その日付が、古代中国の易学書の表記法で書かれていたという点です。

 北朝鮮独裁体制の盲点を集中的に攻撃した怪文書の犯人たち。その戦術の巧みさが、北の住民たちの積もり積もった鬱憤に火をつけた。それは歴史的な意味を持っています。

 まだ怪文書の内容を知らない北朝鮮住民もその噂を聞き、中身について知りたがっているといいます。

 実際、怪文書の内容が保衛員たちの間から少しずつ流出し、住民たちの間に憤りの感情が広がっているとも聞きました。 

 一方で、北の高位層内部では怪文書事件が解決出来ない場合、粛清されるのは誰なのか、戦々恐々としているといいます。

 北の住民たちは「旧官が名官だ」ということわざをよく使います。これは「金正恩時代よりも昔の方がもっと良かった」という意味です。

 ところでその旧官というのは、金日成や金正日時代でもない他の時代、つまり日本の統治時代のことを指します

 ただこれは、日本の統治時代が幸せだったという主張ではありません。共産主義社会は、ほかのどの時代よりも残忍で偽善的で反人間的であることを75年間の体験を通じて思い知った北朝鮮の人々の真率な叫びなのです。

金興光(キム・フンガン)
北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。http://www.youtube.com/c/NKtv3

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月8日掲載

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