日本への毒針? 原潜保有を宣言した文在寅政権 将来は「核武装中立」で米韓同盟破棄

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2022年にはミサイル潜水艦を実戦配備

――韓国もSLBMを持っているのですか?

鈴置:射程800キロの地対地弾道弾「玄武(ヒョンム)2C」をベースにSLBMを開発中と伝えられます。それを打ち出す、韓国初の垂直発射管を備えた潜水艦「島山・安昌浩(トサン・アンチャンホ)」は2018年9月に進水済み。2022年までに実戦配備の予定です。

「島山・安昌浩」は張保皐(チャンボゴ)級タイプI(3000トン)の1番艦です。張保皐級はさらに大型化したタイプII、IIIと合わせ、合計9隻を建造予定で、ミサイル潜水艦隊を構成します。

――だんだん、衣の下から鎧(よろい)が見えてきましたね。

鈴置:その通りです。核を持っても、それだけでは敵国の核攻撃を阻止できない。敵国に核ミサイル基地を先制攻撃されたらお終いだからです。

 そこで核保有国は先制攻撃に耐え、核で反撃する第2撃能力を持つのが普通です。第2撃能力とは主に、SLBMを搭載したミサイル潜水艦を意味します。

 だから北朝鮮が時々、SLBMを完成したと誇示するのです。「第2撃能力を持った。先制攻撃をかけてきたら反撃するぞ」と米国に向け肩をそびやかしているのです。

 北朝鮮もソ連製の旧式ミサイル潜水艦は保有している模様です。ただ、ディーゼル推進式なので長期間、連続して行動できません。核兵器のプラットホームとしては、はなはだ頼りない。

 このため、北朝鮮も長期間運用できる原子力推進式のミサイル潜水艦を建造すると推測する軍事専門家が多い。明示的な核保有国はパキスタンと北朝鮮を除き皆、原潜を持っています。逆に、原潜を持つ国はすべて核保有国です。

「ミサイル原潜建造」を宣言

――韓国もミサイル原潜が欲しくなる……。

鈴置:当然です。8月10日、韓国も原潜保有に名乗りをあげました。「2021―2025年 国防中期計画」(韓国語)を発表した席上、国防部は「武装搭載能力と潜航能力を向上した3600トン級の張保皐級タイプII、4000トン級のタイプIIIを建造する」と宣言しました。

 朝鮮日報の「軍、原子力推進の潜水艦を開発示唆」(8月11日、韓国語版)によると「張保皐級タイプIIIは原子力推進か」と問われた国防部関係者は「現段階で言及するのは不適切だ」と、明言はしないものの否認しませんでした。

 この記事は7月28日の会見で金鉉宗・第2次長が「次世代潜水艦は核燃料を使うエンジンを搭載する」と述べたことも報じています。これからも、タイプIIIが原潜であることは間違いありません。韓国はついに衣を脱ぎ捨て、鎧――核武装の意思を露わにしたのです。

 文在寅大統領は選挙公約で原潜の保有を掲げました。これは退任後に自殺した盟友、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の悲願でもありました。

 中央日報の国防部担当記者、イ・チョルジェ記者の「有事には中・日を刺す『毒針』…16年間眠っていた原潜、再度推進」(8月16日、韓国語版)によると、盧武鉉大統領は2003年3月に原潜の保有を秘密裏に指示。2012年までに3隻を建造する計画を米国にも隠して進めていました。

 しかし、2004年1月にメディアにすっぱ抜かれたため、原潜建造計画は中止に追い込まれました。米国の圧力と思われます。同年9月には韓国が秘密裏にウラニウムを濃縮しているとBBCが報じたことも、原潜計画にトドメを刺したといいます。

米・仏からの購入に失敗、国産化

――今回、米国は韓国の原潜計画を止めないのでしょうか。

鈴置:少なくとも、いい顔はしていません。2017年に就任した直後、文在寅大統領はトランプ(Donald Trump)大統領に米国製の原潜を購入したいと持ちかけました。

 しかし、イ・チョルジェ記者によると、初めは応じるかに見えた米国は、最後は断ったそうです。ただ、これは韓国政府の主張であって、本当に「初めは応じた」かは怪しいと思います。

 文在寅政権はフランスからの原潜購入も検討したものの、失敗したともこの記事は伝えています。海外からの導入に失敗したので結局、8月10日に自主建造に踏み切ると宣言したのでしょう。

――米国に邪魔する手立てはないのですか?

鈴置:原潜を動かす核燃料で歯止めをかける手があります。米韓原子力協定により、韓国はウラニウムの濃度を20%までにしか濃縮できません。これだと90%以上の濃度の核燃料を使う米国型の原潜は動きません。

 ただ、フランスの原潜などは、濃縮度20%以下の核燃料で動く原子炉を搭載しています。イ・チョルジェ記者はソウル大学原子力工学科のソ・ギュンヨル教授の以下の言葉を引用しています。

・(設計によっては)濃縮度20%の核燃料で30―40年間は燃料の交換が不要である。産業用の濃縮度3・5%のウラニウムでも最低10年間はいける。

 要は「米韓原子力協定の縛りがあっても、原潜の自主開発・運用は可能だぞ」と言っているのです。

――米国に突っ張って見せている感じの記事ですね。

鈴置:そうなのです。「米国が阻止しようとしても、韓国は自力で原潜を作れる。だったら米国は我が国に売った方が得であろう」という韓国政府の本音を代弁しているように見えます。

 この記事を含め、原潜建造を打ち上げた今回の発表自体が「原潜を売れ」との、米国への強訴なのかもしれません。

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