日本への毒針? 原潜保有を宣言した文在寅政権 将来は「核武装中立」で米韓同盟破棄

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米韓同盟を捨てる度胸のない保守

――「核武装中立」ですね。

鈴置:「中立」という言葉は、多くの韓国人の耳に美しい音楽のように響きます。大陸と海洋の狭間、半島に生きる韓国人。大陸勢力と海洋勢力の争いの舞台となることで、自分たちは苦難の歴史を歩んできた、と考えているからです。

 その「中立」を担保するのが「核武装」です。朝鮮半島中立論は昔から語られてきました。実現しなかったのは、韓国人が周辺大国に対抗する武力を持たなかったからです。核さえあれば中立も可能なのです。

 史上初の、周辺大国に頭を下げなくともよい国家の誕生です。文在寅政権や次の左派政権には、国民から絶大の支持が集まります。

――保守政権も核武装には密かに意欲を燃やしてきました。

鈴置:それはそうです。でも、保守は米国の顔色を見て最後のところは弱腰だった。典型が原潜の保有です。密かに建造に着手した盧武鉉政権も、初めて大っぴらに保有を唱えた文在寅政権も左派。

「いざとなれば米国から同盟関係を打ち切られてもいい」との覚悟があるから――内心は「打ち切られた方がいい」と考えているから――ほぼ核武装を意味する原潜開発にまい進できるのです。

 盧武鉉政権の場合は「米中対立」という国民の背を押す条件がそろっていなかったため、最後までは貫けませんでしたが。一方、保守政権には、米国との同盟を打ち切っても原潜や核を持とうとの度胸はありません。

 要は、韓国人が突き付けられているのは二者択一。「同盟が弱体化する中、自前の核を持てない」貧弱な安保状況に悩む国か、「核武装に担保された中立を謳歌する」自主独立国家か、です。選択を迫られれば、多くの人が後者を選ぶと思います。

「日本を核で脅す楽しみ」がボーナス

――国の在り方を根本から変えるのだから、決断力がいりますね。

鈴置:苦渋の決断は蜜のような甘い糖衣でくるまれるでしょう。核さえ持てば、憎い日本を見返せるのです。慰安婦問題だろうが、いわゆる徴用工問題だろうが「核保有国の韓国に対し、日本は今のように傲慢な態度はとれない」と、韓国人は考え付くはずです。

 経済面では日本に頼る必要はなくなった。だのに日本人は韓国人の「正しい要求」を聞かない。それは軍事的な脅威を感じないからだ。なら、核で日本を脅して要求を飲ませればよい――との発想です。「核で日本を脅す」楽しみは必ずや、国民から拍手喝采されます。

 何度も引用したイ・チョルジェ記者の記事。見出し「有事には中・日を刺す『毒針』…16年間眠っていた原潜、再度推進」に「中・日への毒針」とあるのが象徴的です。

 イ・チョルジェ記者は原潜は北朝鮮に備えた武器ではなく、日本・中国用と分析しています。核武装には一切、言及していませんが、読む人が読めば「原潜に積んだ核弾道弾は核保有国の中国に対してはともかく、日本には大いなる威嚇材料になる」と考えるでしょう。

――米中対立を利用して、韓国が核武装に走る可能性が大きいということがよく分かりました。

鈴置:日本人は「北の核」だけではなく「南の核」にも目を凝らす必要があります。なぜか日本では「韓国の核武装」はあまり注目されていないのですが。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月31日掲載

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