ALS嘱託殺人の山本容疑者、空白の6カ月にフィリピン「セブ島」でやっていたコト

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「脅迫された」と険しい顔つき

 現地で医療支援を行う日系企業の担当者が説明する。

「山本さんのクリニックから提携できないかという話を持ち掛けられました。そこで、フィリピンで医療行為ができる資格を提示するようメールで伝えましたが、返信がありませんでした。フィリピンでは、外国人医師による医療行為は認められていませんので」

 山本容疑者のクリニックは、フィリピンの国内法に抵触する可能性があったということだ。

“日本クオリティー”を届けるためにセブ島へ乗り込んだ山本容疑者だったが、日系企業からの協力は得られず、厳しい運営を迫られることになった。在留邦人からは「診療費が高い」などと言われ、患者も来なくなったために同年12月、閉鎖に追い込まれたという。

 ところが山本容疑者自身は、閉鎖の背景について、周囲の在留邦人たちに別の説明をしている。前述の関係者が言う。

「(提携を断った)日系企業から脅迫されたと、険しそうな表情で語っていました。それで閉鎖に追い込まれたようです。少しずつ患者さんも増え、これからだと言っていたんですが……」

 一方の日系企業担当者は、脅迫については完全に否定している。

「そんなことしないです。そもそも脅迫する理由がありません。ただ、提携をしなかったことが納得いかなかったようですね」

 山本容疑者が語る脅迫の有無は不明だが、いずれにしても両者はセブ島で競合関係にあったため、ビジネスをめぐって何らかのトラブルが起きたとみられる。

 閉鎖されたクリニックは、外資系企業に売却され、常駐の日本人医師は日本へ帰国したという。

 山本容疑者がクリニックの開設に出資した額までは明らかになっていないが、フィリピン進出に挫折したことで、かなりの損失を被ったとみられる。もし彼が異国の地での医療ビジネスに成功していたら、「130万円嘱託殺人」は果たして……。

 会報誌で「セーフティネット」の重要性を掲げていた山本容疑者。だが彼はフィリピンで夢破れ、わずか1年以内に嘱託殺人に手を染めている。ひとりのALS患者の命を奪った山本容疑者にとって、医療の「セーフティネット」とは何を意味していたのだろうか。

水谷竹秀/ノンフィクションライター

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月13日掲載

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