防衛白書が「日本は北朝鮮『核ミサイル』の射程内」と断言 情勢不安で“暴発”するリスク

国際 韓国・北朝鮮 週刊新潮 2020年7月30日号掲載

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 今月14日に防衛省が公表した「防衛白書」は、北朝鮮の核脅威を次のように断じている。

〈北朝鮮は、極めて速いスピードで弾道ミサイル開発を継続的に進めてきており、わが国を射程に収めるノドンやスカッドERといった弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられる〉

 海自の元海将で、金沢工業大学大学院の伊藤俊幸教授はこう指摘する。

「これまでの白書にも“核兵器の小型化・弾頭化を実現”といった表現はありました。しかし、今回はそれだけに留まらず、わが国を射程に収める弾道ミサイルについては、大気圏再突入技術を獲得したと記述している。この両者を踏まえ、北朝鮮が日本を核攻撃する能力を“既に保有している”と明記した点は注目に値します。防衛省がここまで踏み込んだ表現をした背景には、国民に警鐘を鳴らす意味もあったのではないか」

 核実験やミサイル発射が相次いだ2017年頃と比べて、北朝鮮への危機感が薄れているのは事実かもしれない。白書の記述は“平和ボケ”した日本の現状に活を入れることを目的としていたワケである。

 他方、今回の白書に対する北朝鮮側の反応は早かった。朝鮮中央通信のインタビューを受けた北朝鮮の外務省報道官は、今回の白書を〈われわれの核保有に対する言いがかり〉と切って捨てた。さらに、

〈安倍晋三政権はわれわれの“ミサイルの脅威”について騒いで、日本社会に恐怖感を生じさせ、自らの政治・軍事的目的の実現に利用してきた。“脅威”を口実に軍事大国化を合法化しようとしている〉

 などと非難を浴びせる。

 無論、コロナ対応に腐心する安倍政権が、そのウラで“軍事大国化”に邁進していると考える日本人は少数派だろう。また、日本の政治家が、北朝鮮の“ミサイルの脅威”を軽視することは論外と言える。

 そもそも金正恩委員長は一昨年の“新年の辞”で、

「核のボタンは私の執務室の机の上にある。これは脅しではなく現実だ」

 と豪語していた。これを“脅威”と呼ばずして、なんと呼ぶのか。

 軍事評論家の黒井文太郎氏の分析によれば、

「北朝鮮が17年に強行した核実験の推定威力は160キロトン。爆発規模からいって水爆の可能性もあり、広島型原爆の約10倍もの威力を誇ります。広島型ですら熱線による被害は爆心地から半径約3キロに及びましたから、その10倍近い威力の核爆弾となれば、被害は数十キロ近く先にまで及びかねません」

 仮に、この水爆がJR東京駅に落とされた場合、3キロ圏内にある皇居や国会議事堂、両国国技館が火の海に飲み込まれ、山手線の内側ほぼ全域が爆風や熱波に襲われる。そうなれば、文字通り“首都崩壊”だろう。一体、どれほどの犠牲者が出るのか、慄然とする他ない。

 そして、北朝鮮の兵器開発の実情を知れば、この最悪のシナリオも杞憂ではないと思えてくるのだ。

 識者が着目するのは、今年の白書が北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではなく、短距離弾道ミサイルに重きを置き、これまで以上に詳細な説明を加えている点だ。たとえば、北朝鮮が昨年発射した、新たなミサイルに〈「イスカンデル」と外形上類似点がある〉との記述がある。

 先の伊藤氏が解説する。

「これはロシアの短距離弾道ミサイル“イスカンデル”に似たミサイルのことを指します。現在の日本のイージスシステムは地上70~500キロの高度でミサイルを迎撃するのですが、このイスカンデルもどきは、それより低空の“ディプレスト軌道”で飛来してくる。しかも、大気圏内で尾翼を動かすことで、変則軌道を描かせることも可能なのです」

 北朝鮮の狙いは“低空ジグザグ飛来”によって、イージスシステムや、韓国が配備した米国の最新鋭ミサイル防衛システム「THAAD」による迎撃網を掻いくぐることにある。

 軍事アナリストで東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠特任助教も、

「このイスカンデルもどきは現状、韓国向けのものですが、将来、より長距離のミサイルに同じような能力が導入される可能性もある」

 と危機感を募らせる。

 それに加えて、

「昨年10月には、北朝鮮東岸にある元山(ウォンサン)付近の海上から、捕捉の難しい潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)“北極星3号”の試射にも成功しています。この時は、角度をつけて通常よりも高く打ち上げるロフテッド軌道だったため、射程は450キロほどでした。ただ、最小エネルギー軌道で飛ばした場合の射程は2千キロとみられ、河野太郎防衛大臣は“最大で2500キロに達する”との見解を示しています。つまり、日本全土をすっぽり覆うほどの射程を有しているわけです」

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