防衛白書が「日本は北朝鮮『核ミサイル』の射程内」と断言 情勢不安で“暴発”するリスク

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半年で崩壊

 こうした軍事技術の進化に加えて無視できないのは、北朝鮮特有の“暴発”リスクである。

 コリア国際研究所の朴斗鎮所長によれば、

「17年の国連安保理決議によって、北朝鮮は石炭や鉄鉱石、繊維、海産物などの輸出が禁止に追い込まれ、海外で働く北朝鮮労働者も本国に送還されたことで外貨収入の道が絶たれました。トランプ大統領との首脳会談による局面打開も潰えた。そこで、金正恩は昨年末の朝鮮労働党の総会で“正面突破戦”という新たなスローガンを宣言します。これは“野戦”から“籠城戦”にシフトするということ。韓国やアメリカに接触して経済制裁を緩和してもらう方策を諦めて、中国の支援を受けながら新たな戦略兵器の開発が成功するまで持久戦を続ける、と」

“新たな戦略兵器”には、先述したSLBMや変則軌道の弾道ミサイルが含まれるとされる。しかし、

「それからまもなく、新型コロナウイルスが世界的な拡大を見せ始めた。北朝鮮にまともな医療体制がないことは金正恩も承知しているので、台湾よりも早い1月30日にやむなく中朝国境を閉じています。その結果、籠城戦を始めた矢先に食料や燃料などの物資が入ってこなくなり、兵站を補給する手段を失ってしまったわけです」

 元毎日新聞中国総局長の西岡省二氏はこう語る。

「97年に脱北した元朝鮮労働党幹部の黄長ヨプ(ファンジャンヨプ)さんは、“中国との国境を封鎖すれば北朝鮮は6カ月で崩壊する”と話していました。すでに封鎖から半年近くが過ぎているわけで食糧事情はかなり深刻。しかも、金正恩氏には最近、健康不安説がつきまとっていますからね」

 糖尿病や高血圧、重度の痛風といった声も聞こえてくるが、朴所長が続けるには、

「やはり心臓病でカテーテル手術を受けたとする説が有力です。いつまた再発するか分からない病気のため、名代として妹の金与正(ヨジョン)を表舞台に出してきた。これは絶対的な指導者は唯一人とする“党の唯一領導体系”の原則にはそぐわないため、金正恩が健康ならば有り得ないことです。現在の北朝鮮が、金正恩体制始まって以来、最も不安定な状態に置かれていることは間違いありません」

 米ソ冷戦の最中、かのスタンリー・キューブリック監督は「博士の異常な愛情」で、偶発的に核戦争が起きる様を強烈な風刺を込めて描いた。映画の冒頭には、〈この映画に描かれているような事故は絶対に起こり得ないと合衆国空軍は保証する〉とのテロップが流れる。

 だが、現在の北朝鮮において「事故」が「絶対に起こり得ない」とは誰にも断言できまい。八方塞がりの状況で市民どころか軍部にも飢餓が広がっているというから、クーデターが起きる危険性もある。自身の健康不安も相まって、自暴自棄に走った金正恩が机上のボタンに手をかける……。

 わが国の生殺与奪を“36歳の将軍様”に握られていることの恐ろしさを、ゆめゆめ忘れてはならない。

週刊新潮 2020年7月30日号掲載

特集「防衛白書が断言『日本は北朝鮮「核ミサイル」の射程内!』」より

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