トキワ荘の漫画家たちが愛した老舗ラーメン店「松葉」 創業70年で突然行列が…

エンタメ 文芸・マンガ 2020年7月19日掲載

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三代で守り継いできた昭和の味

 午後3時過ぎ、店主に話を聞こうと再訪すると、扉に「本日売り切れました」の張り紙が。

「実は午後2時にはもう売り切れちゃうの。もちろん、こんな行列ができるようになったのも初めてよ。アルバイトさん二人に来てもらって、なんとか回しているけど、もうくたくた」

 そう話すのは三代目店主の山本麗香さん(56)だ。昭和20年代、松葉を創業したのは山本さんの義父。彼女は中国・福建省の出身で、今から29年前に2代目だった夫の一廣さんと結婚し、店に立つようになった。9年前に一廣さんは他界。それからは一人で店を切り盛りしてきた。

「だから私自身は、トキワ荘のあった頃は全然知らないの。旦那は若いころ、よく出前に行っていたみたいだけどね。私は嫁いできて仕事や暮らしに慣れるのに一生懸命だったし、日本のマンガのことも知らなかったから、最初はトキワ荘のこともあんまりよくわかっていなかった。けど、トキワ荘がなくなったあとも、住人やファンたちが懐かしがって通ってくれてね。藤子不二雄Aさんもよく来てくれたのよ。あの人はいつもラーメン、ビール、餃子だったわね。味は創業から変わってないよ」(同)

 店内には、トキワ荘の住人ばかりでなく、後進の漫画家たちのサイン色紙も所狭しと飾られている。トキワ荘解体後は、松葉がマンガ家の卵やファンたちの“聖地”となっていたのだ。

「ミュージアムの展示品のなかに、漫画家さんたちが出前で取ってくれていていたウチのラーメン丼があるの。それを見たお客さんが寄ってくれるのよね。この街に嫁いできたばかりのころは、まだ商店街も賑わっていたんだけど、15年くらい前から人通りが減ってきて、閉めるお店も増えて寂しくなっていた。でも、地域の人たちが頑張って、こうしてまたアニメファンが全国から集まってきてくれるようになったのは嬉しい。主人が亡くなってから一人で大変だったけど、続けてきてよかったって思っています」(同)

 令和になっても守り継がれてきた昭和の味。名作マンガを読み返したついでに、食べに行ってみてはいかが。

福場ひとみ/ライター

週刊新潮WEB取材班編集

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