地震予知を可能にする「電離層前兆予測」とは 大地震なら1日前に? 京大研究

国内 社会 週刊新潮 2020年7月2日号掲載

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「赤」を当てる

 電離層がフレアなど太陽の影響を強く受けることは前述した。電離層の変化がフレアによるものなのか地震エネルギーの解放によるものなのかをどう判別するのか。

「我々が19年に発表した研究では、16年に発生したM6・4の台湾南部地震を取り上げました。その中で、地震が起こる前の複数の人工衛星のデータを解析すると、震源地付近をある特定の入射角で通る人工衛星のみが電離層の電子数の変化を捉えていたことが分かったのです」(同)

 これにより、震源地上空の電離層の電子数の変化は、他の要因ではなく地震の前兆現象であることが明確になった。なぜなら、

「フレアではその影響が広範囲に及ぶため、震源地付近を通る特定の入射角の人工衛星だけではなく、別の人工衛星でも電子数の変化が捉えられているはずだからです」(同)

 現在は京都大学の花山天文台や潮岬の観測所、準天頂衛星システムの「みちびき」やイオノゾンデという観測レーダーを使ってデータの収集をしているという梅野教授。さらに多くのデータを集められれば、より精度の高い地震予測を実現できるという。

 この梅野教授と共同研究を行っているのが、先述した地震予測システム「S-CAST」。そもそもこのシステムの根幹をなす理論を編み出したのは、日本地震予知学会の初代会長で電気通信大学名誉教授の早川正士氏である。

 梅野教授によると、

「電離層の変化から地震の発生を電磁気学的に見るという方法は我々と共通していますが、早川さんらは『電子が下に降りる力が発生し、電離層の位置が下がる』という地震の前兆現象を捉えています」

 解析に使うのはVLF(超長波)/LF(長波)電波である。電離層に電波を反射する性質があることは前述したが、早川氏の研究チームはVLF/LF電波の送信局と受信局を複数用意し、ある地点からある地点までの電波の届く時間を調べる。電波が届く時間が通常より短くなっていれば、電離層が下がっている(攪乱が起きている)可能性がある、というわけだ。

「この方法を使えば、理論的には、起こる地震のマグニチュードと、地震の震源地を100キロから200キロほどの範囲で予測することができます」

 そう話すのは、「S-CAST」を運営する「富士防災警備」の担当者である。

「『S-CAST』では週2回メールでレポートを定期配信しており、M7・0以上の巨大地震規模の前兆現象を解析した際には警戒レベルの『赤色』を、それに至らない規模の前兆現象を解析した際には注意レベルの『黄色』を発表します」

 これまでに配信した「赤色」は精度拡充前のもので、実際に起きた地震は、最大震度4だった。

「それは2014年のことで、当時における赤色の基準はM6・0であり、震度は4でしたがマグニチュードは6・0でした。この後、赤色を発表する基準を引き上げました」

 現在、首都圏を中心に千件ほどの利用があり、3~4割が個人だという。

「個人のお客さんには、月5千円程度で登録できるプランもあります。ちなみに、我々が予測を出したもののうち、実際に起きた地震の割合は84%に上ります」(同)

 無論、「赤」を当てることこそが「S-CAST」に課せられた絶対的使命。このサービスの「南海トラフ地震対策ユニット」を今年4月に導入した和歌山南漁協の担当者によると、

「『S-CAST』の担当者に“赤が出て避難したが外れだったとなったらどうするんだ”と聞いたことがあります。すると、“外れたら地震予知のビジネスは止めます”と言っていたのもあり、信用しました」

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