地震予知を可能にする「電離層前兆予測」とは 大地震なら1日前に? 京大研究

国内 社会 週刊新潮 2020年7月2日号掲載

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台湾では国家プロジェクト

 その将来性に期待を抱かせる「電離層前兆予測」。ただ、そこには難もある。この予測方法は国の支援を全く受けられない中で研究が続けられているのだ。

「東日本大震災は地震研究に大きな変化をもたらしました。まず、あの震災を全く予測できなかった国の地震予知研究に厳しい評価がなされました」

 と、先の長尾氏は言う。

「それを受け、13年の南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの下に設置された調査部会で『現在の科学的知見からは、確度の高い地震の予測は難しい』などの見解を発表。さらに、17年の内閣府・中央防災会議に設置されたワーキンググループでも同様の結論を発表しました。つまり、国は南海トラフをはじめとする巨大地震は、予測不可能だと結論付けたのです」

 その一方、東日本大震災後、地震学者だけでなく異分野の専門家が予測に関する研究に参入するようになった。その一人が梅野教授だ。

「東日本大震災は、発生の40分前から電離層に兆候があったことが明らかになっています。つまり、電離層の変化を観測し続ければ今後大地震の直前予測が可能になるかもしれないと判明したのです。しかしながら梅野教授らの研究内容が発表されたのは15年頃。国が地震の予測は不可能だと、負けを認めてしまった後のことでした」(同)

 地震研究の「総本山」である東大地震研究所は、もとより短期予測の研究に熱心ではなかったというが、

「それでも30年以上前には短期予測に取り組む研究者も今よりは多くいました。短期予測から長期予測に転じたきっかけは阪神・淡路大震災です」

 と、長尾氏が続けて語る。

「日本では1923年の関東大震災以降、本格的な地震研究が続けられてきました。にもかかわらずあの震災の発生を予測できなかった。このことは地震研にとっても相当ショックだったようです。地震現象には未解明な部分がまだ多いと考え、予知より発生メカニズムの解明など基礎研究重視に舵を切ったのです」

 とはいえ地震予測という考え自体を捨てたわけではなく、

「『30年以内に70%の確率で南海トラフ地震が起こる』といった長期予測は今後も出されます」(同)

 では、日本以外の国はどうなのか。世界を見渡せば、短期予測に関する研究が進んでいる国もあるという。

「中国やロシアはアプローチが異なっています。中長期予測は地震学者が、短期予測は物理学者が担う、と役割が分かれている」(同)

 また、台湾では電離層の変化と地震予知に関する研究を17年から国家プロジェクトとしてスタートさせている。国からの研究費がびた一文出ない日本とは雲泥の差である。

 先の梅野教授は、

「地震予測を行うには、リアルタイムのデータを集める必要がある。全国に1300カ所ある電子基準点の測位衛星データを利用することができれば予測の精度が格段に上がると思います」

 として、こう訴える。

「国土地理院はこのリアルタイムデータを1カ所あたり月2万円で有償提供しています。1カ月で2600万円ほどかかるこの費用を、我々の研究費から捻出することは難しい。地震予測という多くの国民の人命を救う研究なので、せめてこのデータを無償で使わせてもらえたら、と思わずにいられません」

 この声が我が国の中枢に届くのはいつの日か。

特集「コロナ禍を襲う『メガ地震』に備えよ! 予知を可能にする『電離層前兆予測』」より

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