北朝鮮「韓国への軍事行動保留」報道の読み方、“金与正軟禁”もある軍クーデター説

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金一族と軍の“力関係”

 各紙の分析・解説はどうなのか、毎日新聞でソウル特派員や論説委員などを歴任、その後、早稲田大学教授を務め、2018年からは東京通信大学教授として半島情勢を分析している重村智計氏に取材を依頼した。

 日本メディアの報道について訊くと、「率直に言って、各紙ともややピントがずれていると言わざるを得ません」と厳しい意見を示した。

「本来であれば、金正恩氏が『党中央軍事委員会を開く』と言えば、開催されるのです。なのに、わざわざ『予備会議』を開いたというわけです。私は長く北朝鮮の動向を取材し、記事を執筆してきましたが、そもそも『予備会議』という文言を見たのは初めてです。しかも党中央軍事委員会が発表したのではなく、労働新聞が報じました。おまけに誰が召集したのか、全く明記していない。これはかなりの異常事態だと分析すべきなのです」

 重村教授によると、朝鮮中央通信の報道を正確に読み解くためには、そもそも北朝鮮で激しい後継者争い、勢力争いが展開されていることを前提にする必要があるという。

「金正恩氏の健康問題、金与正[キム・ヨジョン]氏(32)の地位、そして軍高官の動向を睨みながら、行間を読む必要があります。つまり、読売、時事、共同が示した『揺さぶりをかけている』という指摘は、北朝鮮の指導者層と軍部が完全に歩調を合わせているかのような表現で、これは事実に反していると思います」

 時計の針を6月4日に戻す。韓国在住の脱北者団体が北朝鮮を批判するビラをアドバルーンに載せて飛ばした行為に対して、金与正が突然、口汚く罵って注目を集めた。一節を引用しよう。

《生まれた祖国を裏切った獣にも劣る人間のくずが人間の真似をしてみようとせいぜいすることがあの行為なのだから、汚い口をつぐまず吠え立てる連中に対して雑犬だと言わざるを得ない》

 6月10日には労働新聞の記事に「党中央」という表現が出現した。重村教授によると、党中央は「後継者」の婉曲表現だという。

「金正恩氏の健康問題ですが、4月20日に韓国のデイリーNKが『心血管系の手術を受けた』とスクープし、翌21日にはCNNが健康不安説を報じました。その後、彼は何回か公の場に姿を見せたものの、今に至るまで1度も肉声が報じられていません。そのため、いずれも影武者の疑いが持たれています。そんな折、労働新聞が『党中央』という後継者を意味する表現を使ったことから、健康不安説が再燃しています」

 兄の動向報道が極端に減少する中、ひたすらに妹は韓国を非難し続けた。6月13日には南北共同連絡事務所の爆発を予告し、それが“有言実行”されたのは先に見たとおりだ。

 同じ13日に韓国メディアなどは、金与正の発言として、以下のように伝えた。

▼金委員長と党、国から付与された権限にのっとって行使し敵対事業に関する部署に次の行動を決行するよう指示した。
▼次回の対敵行動の行使権を軍総参謀部に与えることにする。
▼軍は人民の怒りを和らげるため何らかを決心・断行すると信じる。

 与正の発言を受け、北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部の報道官が次のように発表した。

▼今後、実行に向けた軍事的行動計画を作成し、党中央軍事委員会の承認を得る。

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