日本の強みを残した「デジタル化」を図れ――小林喜光(三菱ケミカルHD会長)【佐藤優の頂上対決】

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コロナが炙り出した日本

佐藤 今回、イスラエルのネタニヤフ首相は、議会を経ずに、対テロリストの監視メカニズムでコロナ感染者を捕捉する体制を作りました。

小林 ハラリは反対していましたね。コロナ以前から、世界には対立する二つの体制として、デモクラシーとデジタル・ディクテーターシップ(独裁制)がありました。今回のコロナ対策で、本当にデジタルは独裁制と親和性が高いと感じましたね。中国やイスラエルのように政府がデジタル技術による監視とともにロックダウンをバシッと決めたところは早くに終息に向かっている。その中で日本はあまり強権的ではなく、お上がそう言うから守ろうかという「自粛」で、そこそこうまくやっています。これは評価してもいいと思う。佐藤さんはそれを大政翼賛会に擬(なぞら)えていましたね。

佐藤 はい。同調圧力が社会に組み込まれている。ただし、大政翼賛会では結局、戦争に負けました。

小林 だから今回はうまくやってほしい。強権的でなくてもここまでやれるというのは、欧米諸国とは大きな違いですよ。

佐藤 でも安倍政権への批判はやみませんね。これだけの状況になると、普通、国はまとまるものです。イスラエルでも、ネタニヤフ首相は決して国民に人気があるわけではありませんが、野党が政争をやめ、5月17日には緊急挙国一致内閣ができました。どうも日本と韓国は、こうした非常時でも際限のない政争を繰り広げる傾向にあります。これは北東アジア類型なのかもしれない。

小林 安倍首相は野党やマスコミから独裁者の如く言われていましたが、そうでないことはわかった(笑)。まあ、それはいいとして、このコロナは日本の抱えるさまざまな問題点を炙り出しましたね。

佐藤 小林会長は、平成の30年間を「敗北と挫折」と言ってこられました。

小林 戦後、日本はいわば団体戦で、工業品の生産を効率よく行うことに喜びを見出し、国家としても頑張りましたから、世界第2位のGDPを誇るまでになりました。でもその後、グローバル化やデジタル化を背景にビジネスの世界でもイノベーションが次々と生まれてきます。価値が多様化し今までにないビジネスモデルが新たな市場を作っていく世界では、団体より個々人の実力が重視されるようになりました。この変化に対応することができなかった。

佐藤 成功体験が邪魔をしている。

小林 ええ、モノづくり日本、という固定観念に縛られたまま、現在に至ってしまったわけです。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)の時価総額を持ち出すまでもなく、もう社会全体、世界全体がグローバル化して、リアル経済とバーチャル経済がミックスしたハイブリッド経済になっている。その流れを見抜きながらも、日本は傍観するだけだった。これを敗北と言わずして、何を敗北と言うのかと思いますよ。しかも多くの人はいまの生活に甘んじている。

佐藤 だから日本を「茹でガエル」に譬えられた。

小林 「茹でガエルにはヘビを」と言ってきて、ヘビになるのは海外のアクティビストか、起業精神を持つファーストペンギンたる若者かと思っていたら、コロナが出てきた。それで慌ててオンライン診療やオンライン教育、私たちならウェブ会議をやり始めました。でも特別定額給付金の申請にマイナンバーを使うとなったら、導入して4年も経っているのに、16%しか普及していないことがわかった。しかも多くの人が暗証番号を忘れて、役所の窓口は大混乱している。政府が呑気にやってきたとはいえ、国民全体がデジタルに関してもう少しリテラシーをあげていかないといけないですよ。

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