「漫画村」摘発後も消えぬ海賊版サイト 『ラブひな』作者「はらわたが煮えくり返る」

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天才が筆を折る

 本来、ネットの世界は自由が基本。それに規制を加えることには反対論もあった。実際、改正案は昨年、一度企図されたものの、「ネット利用の萎縮を招く」と国会への提出が見送られた経緯がある。今回は大幅な修正を加えられてようやく成立したのだ。

 なぜ、ネットの世界をそこまでして規制しなければならなかったのか。

 先に述べた「漫画村」「はるか夢の址」は既に消滅しているが、海賊版そのものは今も“健在”で、今年4月末の段階でも、主だったものだけで500のサイトが存在し、上位10サイトでひと月延べ8800万ものアクセスがあったという。こうした甚大な被害の防止はもちろんだが、それに加えて、いや、何より、

「あなたが海賊版サイトを利用することによって、マンガ家さんの収益が減り、新たな作品が生まれなくなる可能性がある。これが最も重要な点なのです」

 と解説するのは、前出の伊東座長である。

「例えば、『漫画村』が一番ひどい時に発売された複数のコミックスを調べたところ、売り上げが2割くらい落ちていたことがわかりました。『漫画村』の影響がない時期に、あるコミックスの10巻の売り上げが〇円あったとして、『漫画村』の影響をもろに受けた11巻のそれが2割落ちる。で、閉鎖された直後に発売された12巻の数字は元に戻る。部数に谷間ができたのです」

 大部数が売れている売れっ子マンガ家であれば、2割の収入減は痛手には違いないが、食べるのには困らないであろう。しかし、

「問題は、これからのマンガ家さんなのです」(同)

 例えば、コミックスがそれなりに売れて月収20万円のマンガ家がいるとする。

「そのマンガ家さんが海賊版のために2割収入が減って月収16万円になるとしましょう。そうなると、もう食べていけないから、他の職業に就くとか、田舎に帰るとかする人も出てくる。でも、もしかすると、そういう若手のマンガ家さんの中に、2年後、3年後、『ONE PIECE』や『進撃の巨人』を描くような天才がいるかもしれない。それが『漫画村』のせいで筆を折ってしまったかもしれない。これからも海賊版のためにそのような可能性があるのです」(同)

 海賊版が読まれても、収益は何も生み出さない「海賊」たちのものになり、マンガ家には一切還元されない。マンガ家が面白い作品を描く→正しく読まれる→収益がきちんとマンガ家に渡る→さらに面白い作品が新しく生まれる、という創造のサイクルが崩壊の危機に瀕している、というのである。

 日本書籍出版協会調査部の川又民男部長も言う。

「例えば単価が千円とか1500円する、高価格帯で少部数の単行本作品を描き、創作活動を維持しているマンガ家さんもいる。そうした下積みの中から出てくるすごい才能もいるんです。しかし、それが海賊版のために売り上げが500部や千部減れば、どうなるのか。これから新しい天才的な作品を生み出すかもしれない人が筆を折ってしまうというのは、非常に衝撃的なことであると思います。こうして海賊版で若手の才能が潰れていくと、マンガを始めとする日本のコンテンツ市場全体に深刻なダメージを与えてしまう。大家と呼ばれるマンガ家の先生たちがよくおっしゃるのは、“自分たちはともかく、若手が心配”“この状態が続くと他の分野に才能が流出してしまう”と。この危機感は非常に大きいですね」

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