金与正は「32才の若い女のくせに」という女性蔑視と格闘中…脱北専門家の分析

国際 韓国・北朝鮮

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金正恩は統治行為を続けられない状態

 金正恩・朝鮮労働党委員長(36)不在の中、存在感を強める実妹の金与正(32)。彼女が韓国に対して苛烈な挑発行為を続ける理由は、経済的支援を引き出すためという見方が少なくないが、必ずしもそうではないと脱北した北朝鮮専門家は分析する。北朝鮮には、男性たちからの女性卑下意識が根強くあり、金与正も権力掌握のためにそれを無視できないというのだ。

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 6月16日に報道されたように、北朝鮮は開城工業地区内の「南北連絡事務所」を跡形もなく粉々に破壊し、その後、韓国へ4つの挑発的な目標を定めた。

1.金剛山観光地区と開城工業地区に連隊級北朝鮮軍部隊を再配置
2.非武装地帯(DMZ)から撤退したミンギョン警戒所(見張り台)の復活
3.西南海上前線を含む北朝鮮軍全体に1号戦闘勤務体系に改善し、各種の軍事訓練再開(北朝鮮、韓国の西海にて)
4.DMZ全体において、民間人の出入りエリアを開放。民間人による大規模な対韓ビラ散布について、段階別実践行動に突入

 6月4日付の金与正による談話文で、すでに「南北連絡事務所を爆破する」と露骨に脅していたが、とうとう北朝鮮は越えてはならない一線を越えてしまった。

 これにより金与正が総指揮する対韓挑発の緊張がますます高まり、今後、世界の人々は金与正が一体何を望んでいるのか、とさらに困惑するであろう。

 脱北者であり、対北専門家としての視点から、金与正が望むところを探っていこうと思う。

 現在、日本、韓国、アメリカの対北専門家たちの中では、「金正恩が金与正を背後で操り、金与正は銃を肩にかつぎ、舞いでも舞っている」などといった見方が大勢をしめているようだが、果たしてそうなのか?

 私はそうは思わない。

 私の所見について結論から申せば、今回の最悪な「対韓挑発」は、もっぱら金与正だけが総括して指揮した事件である。

 さらに直截的に言えば、金与正をトップとする北朝鮮の新しい統治体制を構築するため、どうしても必要なイベントを起こしていると考える。

 その根拠として次の3つを挙げることができる。

 まず、今の強硬挑発の行動の前後に金正恩が見えない点だ。

 彼の健康に異常があるか、もしくは当分の間、統治行為を続けられないほど何かしらの変化がおきているようだ。

 それとこの70日間という最長期潜行期間において、金正恩はあれほど楽しんだミサイル発射さえ一度もせず、全国各分野に対する定期的な視察にも姿を見せなかった。最側近を円座させたその姿を3度だけ写真・動画に撮っただけで、自身が健在であるとアピールしようとした。

 2つ目として、北朝鮮は今回の「特大型挑発」は、金与正の存在と地位を浮き彫りにし、その指示命令体制を確立することを目指しており、今回の爆破もすべては彼女の功績によるものとされている。

 しかし、このことは北朝鮮の体制を支える根幹「党の唯一領導体系確立の10大原則」に完全に違反する現象だ。

 北朝鮮の10大原則には大要こうある。「金正恩だけが、他のだれも知り得ない鉄のような革命的信念を持ち、個別的な幹部たちに対し幻想を描いたり、個別的な幹部たちの発言を命令だの指示だのといって集合的に討議したり、盲従盲動することがないようにしなければならない」

 したがって、たとえ妹といえども、今回のように大っぴらにナンバー2であることを顕わすような軍事行動を指示するのは、唯一独裁の体制下では独裁の権威を乱し、彼らの聖域である10大原則を崩壊させる結果となるわけだ。

 内政的には金与正が実質的にトップとしての役割を果たすとしても、外交面でこのように騒々しく振舞って、金与正のプレゼンスを押し上げることは、金正恩としては黙っていられることではないのだが……。

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