金与正は「32才の若い女のくせに」という女性蔑視と格闘中…脱北専門家の分析

国際 韓国・北朝鮮

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年末までに権力基盤を固めた後に…

 ではそうなった場合、国民たちをどのようにして一気に掌握するのか?

 いま北朝鮮全域で起きている大衆集会で、北朝鮮の国民たちが「最高の尊厳を害した脱北者たちを撃ち殺せ」「金与正同志の指示を、命をかけて貫こう」と喉が破れるほどに叫んでいる。そのように大衆を扇動し続けられるならば、彼らの頭には瞬く間に、“我らの指導者は金与正”と刻み込まれる。

 少なくない専門家たちが、今回の対韓挑発の目的を、金与正が韓国から経済的支援を引き出し、アメリカによる対北制裁の早期解除に影響力を与え、韓国をアメリカから切り離そうとするところにあると分析している。しかし、実は北朝鮮に蔓延する女性差別への悩みの一つと考えれば今までの執拗なまでの声明、行動が理解できると思う。

 金与正にとって今一番必要なものが金であり経済支援であるなら、16日のような南北連絡事務所の爆破という無謀なことはしないだろう。

 すぐに韓国に金をくれと頼まなければならない立場でありながら、百数十億ウォンをかけて造った共同連絡事務所を灰燼に帰してしまった後で、どんな顔をしてお金をくださいと言えるのか疑問だ。

 くれぐれも強調しておきたいのは、金与正はいま韓国からお金を剥ぎ取り、瀕死の北朝鮮経済をよみがえらせ北朝鮮の住民たちを飢餓状態から救うことを急いでいるのではない。

 なによりも至上命令である、自身の新政体制の確立が急がれているのだ。そうかと言って、金与正が韓国からお金と経済支援を剥ぎ取ることを放棄したのかというとそうではない。

 少なくとも、それは今ではないということだ。

 たぶん今の挑発を年末まで続け、確実に権力基盤を固めた後で来年あたり南北関係改善の秋波を投げ掛ける。それを首を長くして待ち侘びている韓国政府は、棚ぼたとばかりにパクリと喰らい付くしかない。

 来年は、韓国大統領選挙の前年にあたる。むろん南北関係の好転は韓国政府と与党にとって支持率上昇のために欠かせないビッグイベントであり、どんなに嫌でも北の提案について両手を挙げて歓迎するしかない。そのことを金与正は見透しているのだ。

 韓国は、これまで対北関係で見せてきた旧態依然として卑屈でさえあった態度を捨てるべきだろう。感情を徹底的に排除し、理性的な対応を貫くなら、金与正はむやみやたらに韓国に対する敵対的挑発を起こしたりできないはずだ。

金興光(キム・フンガン)
北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月20日掲載

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