「史上初」女子たちのプレッシャー 光明皇后と孝謙(称徳)天皇

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「命名」=「支配」。親の支配を逃れる方法

 さて、天皇が臣下に姓を賜るのは、天皇の支配下に置くことを意味する、というようなことをさっき書きました。

「命名」=「支配」であることを如実に表しているのが古代の地名です。『風土記』で、天皇家の人々の言動によって土地が名づけられるのも、命名によってその支配下に入る、土地を支配することと同義なわけです。

 そういう意味で言うと、昔は「名づけ親」というのがいて、たとえば『竹取物語』のヒロインを“なよ竹のかぐや姫”と名づけたのは、彼女を竹から見いだした竹取の翁ではなく、“御室戸斎部〈みむろどいむべ〉の秋田”という人です。名づけ親は生涯、その子の後見人となる。ことばを変えれば、その子は名づけ親の支配下に入るのです。

 もちろん名前は親がつけることもあります。『古事記』で、垂仁天皇とその后のサホビメが敵味方に分かれて戦うことになった際、サホビメは生まれた皇子を垂仁に渡すのですが、サホビメに未練のある垂仁は、

「そもそも子供の名は必ず母がつけるのに、この子の名はどうしたらいいのか」

 と尋ねます。基本的に母方で子が育てられていた古代には、母が命名者だったのです。

 そして、親が子に命名した時点でその支配下、コントロール下に入ったことになる、と。

 古代に、毒母が目立つのも、こうした理由から、かもしれません。

 いずれにしても、親に名前をつけられた時点で、親の息が掛かっているわけで、親を憎んでいる人が時に改名したりするのも、親のつけた名前が嫌だ、自分の名に親の気配を感じるのが嫌だ、という思いからであるにしても、親の支配下から離れるという意味では非常に効果的であろうと思う次第です。

※1 『続日本紀』天平宝字二年八月一日条
※2 『続日本紀』天平二十年四月二十一日条
※3 勝浦令子『孝謙・称徳天皇』(ミネルヴァ書房)
※4 新 日本古典文学大系『続日本紀』三 補注
※5 氣賀澤保規『則天武后』(講談社学術文庫)
※6 『続日本紀』神護景雲三年九月二十五日条
※7 『続日本紀』天平宝字元年七月四日条
※8 奥富敬之『名字の歴史学』(角川選書)
※9 『続日本紀』天平宝字元年四月四日条

大塚ひかり(オオツカ・ヒカリ)
1961(昭和36)年生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒。個人全訳『源氏物語』、『ブス論』『本当はひどかった昔の日本』『本当はエロかった昔の日本』『女系図でみる驚きの日本史』『エロスでよみとく万葉集 えろまん』『女系図でみる日本争乱史』など著書多数。

2020年6月19日掲載

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