金正恩の“健康不安説”が再燃 きっかけは労働新聞が使った“ある文言”
滅多に使われない文言
北朝鮮の南北共同連絡事務所が爆破された。北朝鮮の動向に世界中の関心が集まる中、専門家は党機関紙「労働新聞」が6月10日に掲載した記事に注目しているという。何しろ、健康不安説が消えない金正恩[キム・ジョンウン](36)の現状を解く鍵があるというのだ。
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この日、労働新聞は2面に「主体朝鮮の絶対兵器」という記事を掲載した。ただし、社説でもなく、コラムでもない。抽象的で難解な記述が延々と続く、新聞記事とは思えない筆致だ。百聞は一見にしかず、冒頭部分を少しご紹介しよう。
《神聖な革命伝統が輝かしく継承されている我が祖国の最も貴重な宝は何か。それは、一心団結だ。一心団結、これは全ての人民が領導者の元に堅く団結して互いに助け合って導く一つの大家族を作りあげている我々式の社会主義の本質的特徴であり、無限大の力の根源だ》(註:改行を省略した)
こんな調子で延々と続いていくのだが、末尾から数えて4行目に、専門家が仰天する記述が書かれていた。
《偉大な党中央と思想の志も歩みも共にし、祖国繁栄のきらびやかな明日を前倒ししていく我が朝鮮人民の前進を遮る力はこの世にはない》
この文章のどこに注目を集める要素があるのか、素人には見当も付かない。北朝鮮情勢に詳しい東京通信大学の重村智計教授に解説を依頼した。
重村教授は「労働新聞で『党中央』という表現が登場することは滅多にありません。なぜなら、後継者という意味をほのめかすために使われるからです」と説明する。
「1974年2月、金日成[キム・イルソン]氏(1912~1994)の後継者に金正日[キム・ジョンイル]氏(1941?~2011)が決定した際、労働新聞は正日氏の氏名ではなく、『党中央』と表現したのが原点です。金正恩氏の時も同じで、2010年9月に『党中央』の表記が登場しました。金正日氏は11年に死去し、同年の12月に金正恩氏は朝鮮人民軍最高司令官に就任しました」
ご存知の通り、今年に入ってから、金正恩の動向に関する報道は極端に減少している。4月11日に党中央委員会政治局会議に出席したと伝えられたが、何と15日は祖父・金日成の生誕記念日だったにもかかわらず、全く動静が報じられなかった。
例年であれば、金日成氏の遺体が安置されている錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝する姿が公表されるのだが、北朝鮮の国営メディアは沈黙を選んだのだ。
これは異例と言っていい。すぐに韓国とアメリカの一部メディアは正恩が心血管系の手術を受けたと報じた。
これで健康不安説が一気に過熱する。北朝鮮は打ち消そうとしたのか、朝鮮中央通信は5月2日、正恩が「肥料工場の完工式」に出席したと報じた。
だが、再び動向の報道は途切れる。そして朝鮮中央通信は6月8日、正恩が党政治局会議に出席したと伝えた。それでも健康不安説は消えず、依然として燻っている。
「肥料工場の完工式や政治局会議に出席した姿は、北朝鮮の国営メディアなどを通じ、写真や動画が配信されました。ところが、動画に金正日氏の音声は記録されていないのです。健康不安説が流れてから現在に至るまで、金正恩氏の肉声は伝えられていません。このことから、5月2日と6月8日に登場したのは影武者ではないかという疑いが持たれているのです」(同・重村教授)
そんな折、労働新聞が「党中央=後継者」という表現を使ったのだ。先に紹介した部分を書き換えてみると、《偉大な“後継者”と思想の志も歩みも共にし、祖国繁栄のきらびやかな明日を前倒ししていく》となる。
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