「あの店はマズい」と口コミサイトへ投稿 法的責任は問われる?

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 多くの良識ある人は、「自分はネットに他人の悪口を書いたりしない。ましてや『死ね』なんて暴言も吐かない。だから大丈夫」、と思っているに違いない。

 ただ、そういう方でも意外と、口コミサイトなどではちょっと辛口のコメントをすることがあるかもしれない。金も貰っていないのに褒める義理はないのだ。

 しかし言われた側にとっては大きなダメージとなることもある。辛口コメントは「名誉毀損」あるいは「営業妨害」にならないのだろうか。

 ネット時代の法律知識を弁護士の鳥飼重和氏らが解説した『その「つぶやき」は犯罪です―知らないとマズいネットの法律知識―』の中から、口コミやレビューと名誉毀損の関係を見てみよう。

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「食べログ」「価格ドットコム」など、口コミサイトの影響力は大きい

 【飲食店経営者Hさんの相談】
「私は、鶏肉料理を出す食堂を経営しています。自分で言うのもなんですが、近所の方々からはおいしいと評判ですし、内装にも気を使い、地域ではそれなりに有名な店です。

 ところが、ある日、観光客でしょうか、見慣れないお客さんがやってきて、から揚げ定食を注文しました。そのとき、から揚げ定食の材料の一部が品切れになっていたのですが、私は注文をとるまで品切れに気づきませんでした。しまったと思いましたが、仕方がないので、そのことを説明して謝罪し、『他の料理ならば作れるが、から揚げ定食を作るには材料を買いに行かなければならず、かなりの時間がかかる』と説明しました。

 すると、そのお客さんは『俺はから揚げ定食を食べに来たんだ。時間がかかってもいいから持ってこい』と言うので、材料を買ってきて、料理を出しました。ただ、料理を出した時点では、注文の時から1時間ほど経ってしまっていました。お客さんは食べ終わると、不機嫌そうに会計を済ませて出ていきました。

 その日を境に、段々と客足が遠のくようになり、気が付けば1日の来客数がピークの頃の半分ほどになっていました。不思議に思っていたところ、近所の常連さんが『ネットでこの店の悪口が書かれているよ』と知らせてくれたのです。教えてもらった口コミグルメサイトを見てみると、『料理が出てくるまでに1時間かかるのは遅すぎる』『おいしくない』『態度が悪い』などの書き込みがされていました。

 こうした書き込みは、名誉毀損なり営業妨害なりにならないのでしょうか?」

あまりに一方的なものは責任を問われる可能性がある

 【回答】
 現代では、「口コミ」や「レビュー」などという形で、商品やサービス、企業などについての個人の主観的な意見を掲載するウェブサイトが人気です。利用客が飲食店を評価する「食べログ」、ユーザーが電化製品などを評価する「価格ドットコム」など、影響力の強いサイトも多数あります。

 2013年5月、この「食べログ」に「料理が出てくるのが遅い」「おいしくない」などと書き込まれた飲食店の経営者が、サイトの運営会社に対して、店舗情報の削除と損害賠償を求め、札幌地裁に提訴したというニュースが報道されました。原告側弁護士は、営業権の侵害だと主張しています。

 サイトの利用者からすれば、店への評価は率直で厳しくあってほしいものです。また、客商売の飲食店などが人々から評価されることは当然であり、それをネットに書かれたところで仕方のないことだという意見もあるでしょう。

 もちろん、「おいしくない」というのはたまたまその利用客が感じたことに過ぎませんし、読み手の側も個人的な感想だと思って読むことが多いでしょう。

 しかし、こうした評価は、お店にとって死活問題です。100人中99人がおいしいと思う料理でも、1人が「おいしくない」と感じて口コミサイトに書くと、それを見た人は「この店はおいしくないらしいから行くのはやめておこう」と考えるかもしれません。いまや口コミサイトの影響力は大きく、その内容は多くの人の行動を左右する可能性があります。

 サイト内で特定の個人を「バカだ」などと言うのはたしかに相手の名誉感情を傷つけることになりますが、こうした口コミサイトの場合、店の経営を圧迫したり、商品の売り上げを大きく下げたり、企業や関係者に多大な損害を及ぼす可能性があります。

 果たして、客観的な事実ではなく、「料理が出てくるのが遅かった」「おいしくない」のような「意見や論評」についても、名誉毀損が成立するのでしょうか。

 実は、刑罰を伴う刑法上の名誉毀損罪には「事実の摘示」が必要ですが、損害賠償を請求する民事上の名誉毀損においては「事実の摘示」は不要だと考えられています。つまり、たとえ客観的事実を示さず、単なる意見や論評を述べたとしても、相手の社会的地位を低下させた場合には損害賠償を請求される可能性があるのです。

 かつて、ある殺人事件の被疑者Xを取り上げた新聞記事が、X本人から名誉毀損だとして損害賠償請求裁判を起こされたことがありました。当時Xは勾留中で、無実を主張し続けていましたが、記事では「Xは極悪人、死刑よ」というタイトルのもと、被疑者と親密な交際をしていたと称する女性のコメントとして、「(Xは)仕事とかお金とか事件のこととか、〈こんなこと私に話してもいいのかしら〉と奥さんのBさんにも話していないようなことを話してくれました。内容はノーコメントですが、(警察に)呼ばれたら、話します」「本当の極悪人ね。もう、(Xと)会うことはないでしょう。自供したら、きっと死刑ね」などと掲載しました。また、元検事と称する人物の「(Xは)知能犯プラス凶悪犯で、前代未聞の手ごわさ」などと評するコメントも掲載していました。

 この記事は、「Xが人を殺した」などと事実を直接提示しているわけではありません。あくまで、女性や元検事の印象の主観を掲載し、「Xが犯人だろう」という論評を展開しているに過ぎません。

 しかし裁判所は、「社会的評価を低下させる意見や論評」を書いた場合についても、事実を書いた場合と同様、名誉毀損が成立しうるとしたのです(平成9年9月9日最高裁判決)。

 それでは、意見や論評をどこまで書くと、名誉毀損が成立してしまうのでしょうか。

 この判断はとても微妙なところですが、「過度に攻撃的なもの」などは名誉毀損が成立しやすいでしょう。例えば、「私には肉が固すぎて口に合わなかった」という程度ならば大丈夫でも、「人間の食い物とは思えない異常な味がする。店の親父の汗と脂の味なんじゃないか」となると名誉毀損の可能性は高くなります。

 ちなみに、「営業権侵害」については、名誉毀損に比べてさらに判断基準が曖昧(あいまい)ですが、飲食店のような客商売では、社会的評価の低下がそのまま集客力の低下につながりますので、「業務を妨害し営業権を侵害する行為」だと判断される可能性があります。

 ただし、これまでのケースと同様、〈1〉公共の利害に関する事実について、〈2〉目的が専ら公益を図ることにあること、〈3〉書き込まれた事実が、その重要な部分において真実であることが証明されたときには、人身攻撃に及ぶなど意見や論評としての域を逸脱したものを除き、違法性がないものとされています。

 飲食店を利用し、そこで実際にあった事実をもとに意見や論評を書いている場合には、一般消費者が飲食店を選ぶときの参考になり、知る権利にとって有益とも考えられますし、あくまで目的は一般消費者への情報提供であるといえるので、〈1〉「公共の利害に関する事実」も〈2〉「公益目的」についても認められる可能性があるでしょう。ただ、この問題についてはあまり前例もなく、今後の裁判の動向に注目したいところです。

〈3〉の「真実性」についてはどうでしょうか。今回、Hさんのお店に来たお客さんは実際に料理を食べていますし、料理が来るまでに1時間かかったのも事実ですから、これを満たしているようにも思われます。ただ、経営者Hさんは、から揚げ定食の材料がないことを説明して謝罪し、時間がかかることも説明しているので、この点に触れずに、単に「料理が出てくるまでに1時間かかるのは遅すぎる」とする書き込みには問題があるとも考えられます。この点をどう考えるかによって違法性の判断が変わってくるでしょう。

 以上のように、一般論として、飲食店に行った感想として「おいしくない」などと書くことが名誉毀損や営業権の侵害になるかは微妙なところであり、法的な対応が困難なケースも多いでしょう。

 ただ、営業の妨げとなるような、現実と異なる書き込みや、過度に攻撃的な書き込みをされた場合は、比較的権利侵害を主張しやすいと考えられる運営サイトなどに、削除などを請求することが考えられます。

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 もちろん、口コミやレビューは消費者の自由であるし、多くの人の参考にもなる。しかしあまりに一方的なものは責任を問われる可能性がある点は注意したほうがいいということだろう。自分が言われたらどう思うか、ということを考えるべき、というのはネット上に限った話ではない。

デイリー新潮編集部

2020年6月17日掲載