そのつぶやきは犯罪です SNS時代の「名誉毀損」入門(1)

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「テラスハウス」(フジテレビ系)出演のレスラー、木村花さんの急死をきっかけに、SNS上での誹謗中傷に対して何ができるか、という問題が大きくクローズアップされている。また、木村さんに対して酷い書き込みをしていた人たちの中には、今になって不安を覚えてツイートを削除したり、弁護士に相談したりする人もいると伝えられている。

 こうした状況を見て、自分は他人の悪口を書いたりしないから大丈夫、と思っている方もいるかもしれない。が、法律的に見た場合、事はそう簡単ではなさそうだ。

 殺害予告のような明らかに法律に触れる書き込みをする人はあまりいないだろうが、軽い気持ちで書いたものや、時には善意で書いたものでも法的な責任を問われる可能性はあるのだ。特に素人にはアウト、セーフの線引きが難しいのが名誉毀損である。

 弁護士の鳥飼重和氏が監修した『その「つぶやき」は犯罪です―知らないとマズいネットの法律知識―』の中から、名誉毀損に関する部分を4回にわたってご紹介しよう。同書は、一般の人の不安、素朴な疑問に答える形式で法律家の見地からアドバイスをするという趣向である。

 第1回目のテーマは、「そもそも名誉とは何か?」「聞いた話を広めただけでもダメ?」。

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「私はただコピペしただけです」

 【匿名掲示板愛好家Dさんの相談】
「私はよく匿名掲示板を見ていて、ときどき噂話や自分の知っている情報を書き込んでいます。名前を出さなくてもいいから気軽に書き込めますし、寝る前の息抜きにちょうどいいんですよ。

 あるとき、男性タレントXについて、『Xの秘密』というスレッドが立っていたので覗いたところ、『こいつは家政婦を雇うと称して愛人を募集している』などという書き込みを見つけました。

 この書き込みを誰が書いたのかはわかりませんし、情報源も不明で、デマの可能性が高いと思いました。ですが、Xは男に対しては偉そうなのに、若い女性と共演する時は鼻の下を伸ばしていて、いかにもスケベそうなタレントです。この話は面白いと思い、この書き込みを芸能ネタ全般の書かれたアクセス数の多いスレッドにコピペ(文章などのデータをコピーして貼り付けること)してみました。そうしたところ、Xについてあることないこと書く人が次々現れ、予想以上の盛り上がりを見せたのです。

 私は、最初こそ面白がっていたものの、そのうち、Xが自分のブログ上で、ネット上の自分の噂について言及し、『私は愛人募集などしていない。全くの事実無根で名誉毀損だ。書いたやつは絶対に許さない』と書いているのを見て、不安になってきました。

 でも、その噂を言い始めたのは私ではなく、私はただコピペしただけです。私だけでなく、他のユーザーもコピペしていますし、同じような書き込みも沢山あります。

 あまりよい書き込みであるとは思いませんが、何か問題はあるでしょうか?」

コピペをした人も「名誉毀損」が成立しうる

 【回答】
 Dさんの相談に答えるにあたって、まず「名誉」とは何かを考えてみましょう。

「名誉」の意味についてはいくつかの考えがありますが、大きく二つに分けることができます。

 一つは「外部的名誉」を指します。これは、「社会が与える評価」を指し、判例では「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」(昭和61年6月11日最高裁判決)などと表現されています。たとえば「◯◯社長は優秀な経営者だと、業界で高く評価されている」といったようなものです。

 これに対し、自分自身の価値についての意識や感情を「名誉感情」といいます。「私は優秀な経営者だと思う」など、あくまで主観的なものです。

 一応、名誉感情を侵害した相手に対しては、民事裁判で損害賠償を請求することは可能ですが、刑法上は該当しないとするのが、現在では主流の考え方です。つまり、外部的名誉(社会的評価)を下げる行為については、「名誉毀損」として刑事責任・民事責任双方で責任が問われる可能性がありますが、単なる名誉感情の侵害については、刑事責任は問われず、民事責任のみが争点となります。

 わかりやすい例でいえば、「閉鎖的な場所で中傷する」「二人だけのメールで批判する」など、他人や社会が見ていない場所での中傷は、外部的名誉を傷つけることにならないので、刑法上の「名誉毀損罪」には当たらないということです。「悪口を言われてむかついた! 傷ついた!」という個人的感情は、民法で保護される可能性があっても、刑法では保護していないのです。

 それでは、「名誉毀損」が成立するかどうかは、どのように判断されるのでしょうか。

 繰り返しになりますが、法律では、「社会的評価を低下させる表現行為」が名誉毀損に当たるものとされています。そしてそれは、「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容」に従って判断すべきものとされています(昭和31年7月20日最高裁判決)。

 Dさんの書き込みは、「こいつは家政婦を雇うと称して愛人を募集している」というものでした。「一般読者の普通の注意と読み方」からすれば、Xにその通りの事実があるかのような印象を与え、社会的評価を低下させるもの、つまり名誉毀損に当たるものと考えられます。

 このDさんの書き込みはコピペとのことですが、コピペであるか否かは名誉毀損の成立には関係がありません。それがオリジナルだろうと、コピペだろうと、社会的評価を下げることに変わりないからです。そのため、最初の投稿をした人も、コピペをしたDさんも、両者について名誉毀損が成立することになります。

 過去には、「うわさによれば……」というような表現で、自分ではなくて他人の発言の引用という形を取った場合でも、名誉毀損罪が成立するとした裁判例がありました(昭和31年6月20日東京高等裁判所判決)。

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 注意すべきはたとえ自分がオリジナルの情報ではなくコピペをしただけでも名誉毀損が成立しうるという点だ。同様に、悪口が書かれたページのURLを書いたり、リンクを貼ったりするだけでも名誉毀損が成立する可能性はあるという。刑法230条1項によれば、「公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」。

 ここにある「公然と」とは、不特定または多数の人がその事実を認識できる状態を指す。つまりリンクを貼る行為もここに含まれてしまう可能性がある。

 これはある程度投稿を閲覧できる人を限定できるSNSにおいても同様で、結局そこから噂が広がるような場合には、「公然と」であると考えられる。

「仲間内で見るだけだから」でもアウトになる可能性は十分あるから要注意である。

 次回は、「本当のことなら名誉毀損にならないのか?」という疑問にお答えする。

デイリー新潮編集部

2020年6月9日掲載

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