「芸能人見かけた」ツイートの法的問題点は? 高額な慰謝料を請求される場合も

社会

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 芸能人、有名人の動向を一般人がツイッターでつぶやくことに対して、当事者たちから異論、抗議の声が挙がっています。お笑い芸人、ロバートの山本博さんはプライベートで宿泊した温泉旅館の関係者と思しき人から、「しょーもない芸人崩れ」とツイートされた件について、自らのツイッターで怒りを表明していました。他にも、ゴールデンボンバーの樽美酒研二さんも飲食店での様子をツイートされたとして、ブログで抗議をしています。

 せっかくプライベートでくつろいでいたのに、その様子が世界に発信されたのですから、不快だという彼らの気持ちも理解できます。

 では、こうしたツイートは、法的にはどのような問題があるのでしょうか?

 ネット関連の法律問題についての解説書、『その「つぶやき」は犯罪です』(鳥飼重和監修)から該当箇所を引用してみましょう。ここでは、あるミーハーなウェイトレスさんの相談という形をとって、専門の弁護士が詳しく解説しています。

【ミーハーウェイトレスXさんの質問】
「私は、昔からミーハーで有名人の恋愛話とかプライベートな話が好きで、週刊誌とかネットニュースもよく読みますし、芸能人ブログなどもまめにチェックしています。中学生の頃から、東京に住んだら有名人が出没するカフェとかレストランで働こうって決めていて、大学で東京に上京したのをきっかけに、晴れて芸能人御用達の隠れ家レストランでウェイトレスとしてアルバイトできることになりました。

 お店で働いて1ヶ月、早くも、有名芸能人がお店に来たんです。しかもカップルで! 2人は、手をつないだりしてかなり仲良さそうにしていて、『家に泊まる』とかいう会話まで聞こえました。私、かなり芸能ネタには詳しいのですが、その2人が付き合っている情報はなかったので、かなりテンションがあがってしまいました。感動のあまり、ツイッターで『○○と○○が来店! どう見ても二人が付き合ってるとしか思えない。今からお泊まりみたい。きゃっ』と書きました。そしたら、ネット上で大騒ぎになって、私のことを批判する書き込みで炎上してしまいました。

心配した友達からは、芸能事務所から訴えられるかもしれないから弁護士に相談した方がいい、と言われました。でも有名人なんだから、ある程度プライベートがネット上で晒されても仕方ないと思うのですが……」

【回答】
 有名人の場合、その人気のあまり、私生活や過去が世間の関心の対象になり、週刊誌やインターネット上で話題となることがあります。巷ではよく「有名税」と言って、私生活を公開されても仕方がない、という話もなされます。たしかに私生活を公開することでライフスタイルを売り出したり、自己のイメージアップを図ったりする有名人もいます。しかし一方で、「人気商売」の彼らは、私生活がみだりに公開されたり、イメージの良くない話を公にされてしまうことで、人気が落ちたり、仕事がなくなったりするなど、一般人にはない重大な不利益が生じる危険性があります。

 このように、有名人の名誉毀損を考えるにあたっては、一般人とは異なった配慮が必要なのです。

■有名人はプライバシーを「一部放棄」している

 もし、有名人のプライベート写真や情報等がインターネット上に流出した場合、彼らはプライバシー侵害又は名誉毀損を主張することは可能なのでしょうか。

 まず法の前提として、プライバシー権や名誉権は、著名人を含めて全ての人に認められる権利です。

 しかし、俳優、歌手、その他の芸能人、プロスポーツ選手などの著名人の場合には、「公衆に自己をさらす職業を自らの意思で選択した」という特殊性があります。そのため、著名人は権利の一部を放棄したとみなし、彼らがその侵害を主張できる場面は、自らの評価、名声、印象を著しく低下させる場合に限られる、という考え方があります。これを「著名人の法理」といい、アメリカの不法行為法において主張されてきた考え方で、日本においてもプライバシー侵害訴訟に関して論じられています(ただし、この法理は、日本の裁判例においては確立されたものではありません)。

 もっとも、公表された事実が社会の正当な関心事である場合には、公表が正当であると判断がなされる可能性があります(平成12年2月29日東京地裁判決)。そして、公表された事実が社会の正当な関心事であるか否かを判断するに当たっては、それが著名人に関するものであることも一つの判断要素になりえると考えられます。

 例えば、有名人が自らプライベートを公にして注目を集めているときに、第三者がそれにちなんだ事実を公表した場合には、プライバシー侵害がないと判断される可能性が高くなると言えるでしょう。

 一方で、プライバシー侵害があるかどうかは、「一般人の目から見て知られたくない事実かどうか」で判断されます。例えば、公道上での散歩は、ある程度公にされることを容認している行為と考えられることから、これには当てはまりづらいでしょう。一方、ホテルの部屋でキスをしている場合には、一般人の目から見ても知られたくない事実であると言えるでしょう。もちろん、この線引きは難しい問題です。

■自宅でくつろぐ様子はプライバシー

 実際に、様々な要職を歴任してきた著名人が、自宅の部屋でガウン姿でくつろいでいるところを写真に撮られ週刊誌に掲載されたことが問題となりました。裁判所は、自宅の部屋の中にいるときというのは、「社会的緊張から解放された無防備な状態」であり「純粋な私的領域」だと評価しました。そして「公衆の正当な関心事に該当するとは認められない」と判断して、写真を掲載した出版社の賠償責任を認めました(平成17年10月27日東京地方裁判所判決)。

「街で有名人を見かけた」という情報が雑誌やツイッターなどで明らかになった場合、いつどこにいたのかという位置情報が「一般的に知られたくない事実であるかどうか」が重要でしょう。例えば、自宅の住所をそのまま明らかにされる、病気を明かしていないのに病院での受診を明らかにされる等は、その有名人のプライバシー侵害にあたる可能性があります。

「有名税」という言葉があるように、有名な人であればプライベートを明らかにされて当然だという考えもありますが、有名であればプライバシー侵害にならないというわけではないのです。

■慰謝料の高額化が進んでいる

 このように、自ら公表している事実が多いために、著名人はプライバシー侵害や名誉毀損において通常とは異なる判断がなされるとの考えがある一方で、プライバシー侵害又は名誉毀損が実際に認められた場合は、損害賠償額が高額化する傾向があります。

 高額化の理由としては、芸能人や社会的地位が高い人物である場合、名誉毀損行為によって被る精神的苦痛が、「量的な面及び質的な面において類型的に大きいもの」と考えられる点等が指摘されています(京野哲也「私人の名誉は公人の名誉より軽いか(2)」「判例タイムズ」1251号73頁参照)。

 以前は、芸能人であっても名誉毀損に対する損害賠償額は数十万円程度が平均でした。

 しかし、2001年に、女優の大原麗子が、近所の住民とトラブルがある、などと報じた出版社を訴えた事件において、500万円の慰謝料名目の金銭の支払いが裁判所で認められたことをきっかけとして、芸能人の慰謝料の高額化が進むようになりました。

 必ず法的な問題になるとは言い切れないまでも、軽い気持ちでつぶやいたら、損害賠償を請求される、ということも十分あり得るようです。有名人を見かけてテンションがあがったとしても、友人などに口頭で伝えておくくらいで留めておいたほうが安全ということでしょう。

デイリー新潮編集部