「夜の街」「接客を伴う飲食店」…… コロナ禍で気になる“曖昧表現” 濁されるワケとは

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 2020年の前半ほど新しい言葉や造語が次々定着していった時期も珍しいだろう。「新型コロナ」に始まりCOVID-19、オーバーシュート、クラスター、ロックダウン、実効再生産数、コロナの女王、東京アラート、緊急事態宣言、アビガン、アベノマスク、リモートワーク、ズーム、ステイホーム等々。

 この中でカタカナ言葉が多いことへの違和感を抱く人は少なくない。河野太郎防衛大臣はツイッター上で、「クラスター」は「集団感染」、「オーバーシュート」は「感染爆発」、「ロックダウン」は「都市封鎖」でいいではないか、といった意見を表明している。同様の指摘をする識者や記事も多い。

 一方で、新語や造語ではないのだが、曖昧な物言いや表現がひっかかる、という人もいる。「自粛」を要請する、というのはそもそも日本語としておかしくないか、何か矛盾していないか、といった声もある。

 また、意外と見過ごされているのが婉曲表現である。「夜の街」「接客を伴う飲食店」といった言葉が代表だろうか。もちろん何でもストレートに言えばいいというものでもないだろうし、奥ゆかしい表現は日本的な美徳かもしれない。しかし、少なくともメディアが深刻な事態を伝える際にそうした配慮は必要だろうか。

 フリーアナウーサーの梶原しげるさんの著書『口のきき方』に、この種の婉曲表現の問題点を指摘した文章がある。

「サービス残業」は「不払い残業」「タダ働き」

 梶原さんがまず問題視したのは「サービス残業」という言葉だ。「サービス残業」の実態は「超過勤務分の給料不払い」であり、要は「不払い残業」「タダ働き」のことである。それを「サービス残業」などと言ってはまるで労働者側が、

「いいすよ、社長。この前も焼肉ご馳走になったんだから、今日の超過分はまけときますわ」

 と言っているような、牧歌的労使関係を思わせやしないか。

 その疑問を梶原さんが実際に労働組合の事務局長にぶつけたところ、こんな答えを返してきたという。

「おっしゃるとおりです。我々も内部では不払い残業と言ってるんですが、マスコミはサービス残業と言わないと食いついてこないんでしかたなく使っているんですよ」

 これを受けて梶原さんはこう述べている。

「表現をやわらかくしてしまった結果、実態が深刻に見えなくなってしまった言葉に『オヤジ狩り』『いたずら』『援助交際』などがあります」(『口のきき方』より)

 これらは本来「窃盗および暴行傷害」「強姦」「売春」と本来の言葉で語るべきではないか、というのだ。

「重い言葉には軽挙妄動をためらわせる迫力があると私は思っています」(同)

 では、コロナ報道で用いられてきた「夜の街」「接客を伴う飲食店」は婉曲表現ではないのか。そこに問題はないのか。

 しゃべりのプロとして知られる梶原さんに、今回改めて意見を聞いてみた。

「夜の街、というのは一定年齢以上の日本人ならばわかるかもしれませんが、若い人や外国人には通じないかもしれません。かといって、ネオン街、歓楽街といった言葉もちょっと古い感じがしますね。簡単に言ってしまえば歌舞伎町みたいなところ、で済むのでしょうが、特定の地域を悪者にするのに抵抗があるのでつい曖昧になるのでしょう。

 わかりやすくするには、業種名などを積極的に言ったほうがいいという考え方はあると思います。キャバクラ、ホストクラブ、ガールズバーというように言わないとイメージがわきにくいのではないでしょうか。ただ、こちらも職業差別や業種差別になるのでは、といった配慮から婉曲表現が多用されているのかもしれません。

 でも、現実問題としてそういう場所、お店でクラスターが多発しているのならば、あまり配慮ばかりしていても仕方がないのではないでしょうか。曖昧な物言いをしていると、本来あまりリスクのないお店や人まで巻き込んでしまうこともあります。

 たとえばソムリエや仲居さんだって『接客』をしているわけですが、メディアはそういう人たちのお店も含めて『接客を伴う飲食店』と言っているのではないでしょう。あくまでもキャバクラなどが対象のはずです。

 小池都知事はカタカナ言葉を連発するのが得意ですが、本当に危機意識を持ってもらいたいのならば、そろそろカタカナや婉曲表現以外で注意を喚起することも考えてほしいと思います。

 業態をハッキリ言うのに差しさわりがあるなら『イチャイチャする店』『鼻下長系』『エッチ系』『出会い型飲食店』等々。その場合、『夜の街』は『エッチなお店で賑わう街』あるいは思い切って『興奮街』とか? 

 そのくらいかみ砕いたほうが、このところ感染が増えているという若者には通じやすいのではないでしょうか。また、自粛を促すのにもいいかもしれません」

「エッチ系」ではないタイプの店からの声が届いたか、菅官房長官は6月3日の会見で、「接待を伴う飲食店」は「キャバレーなど」を指す、と具体的な例を出したという。果たしてこれで「夜の街」問題は解決するだろうか。

デイリー新潮編集部

2020年6月6日掲載

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