withコロナで武器商人まで参戦「マスク中国商人」に密着ドキュメンタリーを観た

国際 中国

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道徳的に問題はないのか?

 山場の一つは、ハッサンという名のトルコ人商人を相手に、1500トンの原料買い付けを交渉する場面。価格は1トン3万5000ドル(約350万円)を提示されたが、林棟は「毎月150トンを2年契約で買うから、1トン2万ドルに負けてくれ」と頼み込む。ランチ、コーヒータイム、そしてディナーまで共にしながら長時間に渡って交渉を重ねたが、当時は完全に売り手優位。1200万ドル(約12億円)の前払いを要求され、交渉は不調に終わった。

 監督は林棟とは適度な距離感を保っているように見え、時には「あなたのやっていることは道徳的に問題はないのか? 人々の不幸に乗じて金儲けしているんじゃないのか?」といった厳しい質問も投げかける。

「むしろ、人助けをしていると思っています。世界的に物資の流通がストップしているなかで、バイヤーとして原料の買い付けを頼まれた。大きなリスクを抱えながら買い付けを行い、そのなかからいくらか報酬を得る。それって悪いことですか?」

 林棟は、あくまでビジネスマンとしての姿勢を崩さない。トルコ商人を相手に時に焦りの表情や困窮した姿も見せるが、全体としてはあっけらかんとして明るい性格のようだ。

 日本でもマスク転売は不道徳とされ、最終的には法律で禁止された。だが、転売ヤーの存在は、需給バランスにしたがって価格調整を行うバランサーとして働く場合もあるのではなかろうか。映画を見終えると、マスク1箱500円で買える時代はしばらく来ないような気がした。1時間16分。監督は「7時間分の撮影データをなくした」と明かしていて、同じ場面を繰り返し使うなど冗長な部分がないわけではないが、武器商人までマスク市場に食い込んでいる現実を知るまたとない機会だと思う。

西谷格
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞「新潟日報」の記者を経て、フリーランスとして活動。2009~15年まで上海に滞在。著書に『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年6月2日掲載

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