コロナ禍で愛人と“おこもり”したタイ国王 国民は前代未聞の王室批判を展開

国際 2020年5月27日掲載

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王室めぐる政治事情

 国王のスキャンダルが報じられるのには、ややきな臭い事情もありそうだ。16年10月に88歳で崩御した前国王は、「国父」としてタイの国民から深く崇拝され、敬愛されてきた。前国王を含め、歴代のタイ政府は、国王を神格化し、政治利用してきた歴史がある。

 法政大学の浅見靖仁教授は、「国王の神格化に最も積極的だったのは、軍事政権だ」と分析しているが、06年と14年には、それぞれタクシン・チナワット氏、実妹のインラック・シナワトラ氏を首相とした政府が、軍事クーデターによって倒された。

 クーデター政権は、前国王の承認を得て成立している。王室は、軍事政権の正当化に利用されている節があり、ゆえに反軍事政権側(タクシン派)としてみれば、継承者である現国王および王室の権威失墜は、軍事政権打倒の活動の一環でもあるのだろう。ゆえに一連のスキャンダル発覚の背景には、タクシン派の思惑があるとの見立てもある。

 実際、先に紹介したハッシュタグによる批判運動も、発端はパリで暮らすタクシン派のタイ人のフェイクブック投稿であるといわれている(英『インディペンデント』報道)。こうした亡命タクシン派の知識人は日本にもおり、京都大学東南アジア地域研究研究所の准教授、パビン・チャチャバルポンプン氏もそのひとり。汚職で有罪判決を受けて国外逃亡中のタクシン元首相の来日に尽力した氏だが、昨年、京都の自宅で就寝中に、何者かに襲われ負傷する被害にあった。「タイの軍事政権が関与している」(米外交筋)との説が有力である。

 さらに、スキャンダルが暴露される背景には、王位継承の事情もありそうだ。タイは王位継承に関し、日本と同様、男系の長子優先であるが、国王が後継者を指名することもでき、女王が誕生する可能性がある。

 先述のヌードパーティの動画流出には、当時皇太子だった彼を、国王に就かせまいとする勢力の仕業だという説もある。その勢力とは、当時、国王の後継者として国民に人気の高いシリントーン王女(65)を推す一派だ。現国王の妹であるシリントーン王女は庶民派として知られ、国父と称えられたプミポン国王の事業を全面的に支援、活動を共にしてきた。ちなみに未婚である。

 現実問題として現国王には3番目の妻との間に生まれた男児がおり、彼が後継者として考えられている。しかし、国王には女性スキャンダルを始めとした暗い影が取り沙汰されている。“世界一の資産”を巡り、現国王の流れを王室が継承していくことを快く思わない勢力もいるのだ。

 タイでは5月2日から3日間にわたり国王戴冠1周年を祝う記念行事が予定されていたが、国王はドイツで自主隔離中のため、欠席。母国を顧みない国王によるこうした行動は、王本人や王政、背景にある軍事政権へのタイ国民の怒りをあぶり出した。タクシン派と反タクシン派、さらに親国王派・反国王派の複雑化した対立構図も渦巻く。5月21日には、5月末までとされていた非常事態宣言を1ヶ月延長する方針が明かされた。これについても、感染拡大防止を建前に軍事政権は反政府活動を抑え込もうとしている、との見方もある。

コロナ禍が今後のタイの民主主義復活にどう影響するか、予断は許さないだろう。

末永恵(すえなが・めぐみ)
マレーシア在住ジャーナリスト。マレーシア外国特派員記者クラブに所属。米国留学(米政府奨学金取得)後、産経新聞社入社。東京本社外信部、経済部記者として経済産業省、外務省、農水省などの記者クラブなどに所属。その後、独立しフリージャーナリストに。取材活動のほか、大阪大学特任准教授、マラヤ大学客員教授も歴任。

週刊新潮WEB取材班編集

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