「全国民にPCR検査を」は間違っている 「新型コロナ」最前線の医師が解説

国内 社会 2020年5月20日掲載

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「死者数がごまかされている」は陰謀論

 さらに、「死者数がごまかされている」という説に対しては「陰謀論の類」だと一蹴。こうしたA医師の話には、現場の医療関係者からも「同感」というコメントが多数寄せられていた。それでも今なお島田氏のように「PCR検査を増やせ」という声は止まない。

 改めて、A医師に「検査数」についての見解を聞いてみた。

「まず、実際の死者数がもっと多いはず、という意見は、データを示さない限り意味がないと思います。実際には、そんなデータは私が知る限りありません。

 感染に関連する死亡を疫学的に分析する方法に『超過死亡』を見るというやり方があります。通常の流行疾患や致死的疾患で亡くなる人が一定数いると仮定して、それより死亡数が増えているかを見る方法です。すごく大雑把にいえば、『毎年この時期、このくらいの人が亡くなっている』という数字と、今年の実際に亡くなっている人を比べてみて、どれだけ増えているかを見るということです。

 たとえばこれが例年よりもかなり増えていれば、仮に死因がハッキリしていなくても、新型コロナの影響があるかも、という推理をしてもいいかもしれません。実際に、新型コロナで多数の死者を出しているイタリア、スペイン、アメリカの都市では、かなりの超過死亡が見られます。

 では、日本はどうでしょうか。東京でこそ2月末~3月末あたりに超過死亡が見られたものの、それ以外の地域では例年よりも少ないのです。東京も4月以降は、例年よりも死者数は少なくなっています。

 もちろん、若干数は真の死因が見逃されている例もあるかもしれませんが、それは全体に影響を与えるような数ではないはずです。

 この超過死亡を見るというやり方はオーソドックスな分析法で、これで見る限り、『ナゾの肺炎死』などが増えているという主張には無理があると言わざるをえません。隠された死者というのはどのあたりを指しての推論なのかわかりません。すべてのデータが隠蔽されている!というのならやはり陰謀論ではないでしょうか」

検査にはデメリットもある

 しかし、まだ若い人が重症化した、亡くなったといった報道に触れると不安になるのが人情というもの。そういう不安を持つ人にとって「PCR検査を増やせ」という主張は耳に心地が良いのも確かだ。

「何となく体調が悪い、という時に今であれば、新型コロナではないかと思って、検査したくなる気持ちはよくわかります。特にテレビなどから膨大な情報が発信されているので、不安が増すのもわかります。

 ただ、前回もお話ししたように、コロナであろうがなかろうが、体に重大な異変があれば急いで病院に行く必要があるし、救急車を呼ぶのもいいでしょう。コロナっぽくないから救急車を呼べないとか、陰性だったから呼べないとかそういうふうに考えないでください(だからといって、不要に救急車を呼ぶのもやめてください)。コロナ以外に人命にかかわる病気やケガはいくらでもあるのです。

 一方で、そこまでの症状がないのに検査をしたいというのは、気持ちはわかりますが、デメリットが多いことはぜひご理解ください。

 まず、本当に必要な検査を遅らせることになります。そもそも世の中には他の病気も山ほどあり、そうしたものの検査もしなければならないのです。

 さらに、検査先で感染するリスクがあることも忘れないでください。せっかく本来は陰性だったのに、そこで感染したら残念なことです。報告されている院内感染の多くは、新型コロナの診察とは関係のない科や病院で発生しています。その方たちに罪はないのですが、結局、感染症対策に習熟していない人たちのところが感染源になってしまう可能性は高いと感じています。

 各地の医師会が急遽作っておられるPCR検査センターでは、必ずしも慣れていない方も動員されているようにも聞きます。そこが新たな感染源になることを個人的にはとても心配しています。

 検査をしないと不安だと感じる方のお気持ちはわかりますが、PCRで1回陰性となったからといって、その後も陰性が保証されるわけではありません。では毎月検査するのでしょうか。キリがないのではないでしょうか。

 医療にかけられるコストは有限です。そのすべてを新型コロナの、それも検査に注ぎ込むといったことをする必要はないはずです」

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