コロナで行われる「命の選別」 医療崩壊が始まっている大病院の現実

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若者に譲る

 大阪大学人間科学研究科未来共創センター招聘教授の石蔵文信氏はこう語る。

「日本の病床数は他国と比べてかなり多いため、軽症者をホテルなどに移せば余裕が出るはず。ただ、問題は集中治療室(ICU)です。コロナ患者をICUに収容すると、他の重症患者の受け入れや治療が困難になります。しかも、ICUで患者にエクモを使えば、専門の医師や技士が常についていなくてはならない。イタリアでは回復の見込みの少ない高齢の患者よりも、若い患者に人工呼吸器が優先的に用いられますが、ただでさえ負担の大きい医療従事者に命の選択まで強いるのは酷だと思います」

 石蔵氏は〈集中治療を譲る意志カード〉を作成し、ネット上で公開した。

「臓器提供の意思表示カードのように、コロナで高度医療を受ける際、“医療機器が不足したら若い人に譲る”ことを表明しています。私も高齢者なので、これを持ち歩くつもりです。医療崩壊を防ぐ最後の砦として、高齢者がこうした姿勢を示すのもいいのではないか」

 もちろん、「命の選別」など起こらないに越したことはない。だが、それほどまでに医療現場が逼迫しているのは事実だ。にもかかわらず、コロナ患者の受け入れに消極的といわれるのが大学病院である。

 文科省は9日、全国に170ある大学病院に対し、コロナ患者の受け入れに最大限取り組むようお達しを出した。だが、13日現在までに受け入れ可能としたのは101病院に留まる。反対に、東京女子医科大学はHPで〈当院は感染症指定病院ではないため、新型コロナウイルス感染症の検査・診断・治療を行う施設ではありません〉と打ち出しており、順天堂大学医院も受け入れは限定的とされる。

 医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は、

「他の病院が受け入れているなかで、大学病院だけが優遇される理由はありません。最先端の医療設備が充実した大学病院もコロナ患者を受け入れるべきでしょう。このまま感染が拡大すると、小規模医院と大学病院ばかりの東京は“コロナ難民”で溢れてしまいますよ」

 順天堂医院の担当者によれば、積極的に受け入れてはいないものの、

「当院に入院・通院中の患者に陽性が確認された場合や、省庁から個別の要請があった際にはコロナ患者を受け入れています。ただ、当院にはコロナ以外の重大な病気で手術や検査を必要とする患者が数多くおられ、そうした方々の命を守る必要がある。高度な医療設備や技術があるからこそ、当院でしか治療できない患者もいるのです」

 2月に「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客128人を受け入れた藤田医科大学岡崎医療センターは、徹底したゾーニングで二次感染を防いだ。だが、守瀬善一院長はこう語るのだ。

「当時はまだ開院前だったので、一般の病院では難しい対応が取れたのだと思います。ただ、救急患者が出入りし、ICUで重病患者を治療しているような大病院では、院内の動線が入り乱れているので当院と同じような対応は困難でしょう。限られた医療資源を活用するためには、日本全体で役割分担を考えていく必要があると思います」

 コロナ感染者の受け入れを断る大学病院は、受け入れている病院から他の病気の患者の転院治療を引き受けてはどうか。

 医療崩壊を防ぐため、そして命を守るために国を挙げての最善策が求められる。

週刊新潮 2020年4月23日号掲載

特集「『コロナ』の決死圏」より

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