『セブンティウイザン』対談 古希間近の妻が「私、妊娠しました」【竹下景子×小日向文世】

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 定年を迎えた65歳のサラリーマンが帰宅すると古希間近の妻がこう告げる。「妊娠しました」。新潮社バンチコミックスの『セブンティウイザン』『セブンティドリームズ』(タイム涼介)がドラマ化。主演の小日向文世(66)、竹下景子(66)が“初産”を演じて得たものとは。

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 夫は65歳、妻は古希間近。結婚して40年。子供はなし。夫の定年後は穏やかな老後を送ろうと考えていた平凡な老夫婦が、ある日突然子供を授かることとなる。ギネスブックもビックリのストーリーだ。優しくもちょっと頼りない夫を小日向文世さん、そして超高齢出産に挑むしっかり者の妻を竹下景子さんがそれぞれ演じる。実際、息子を2人持つ両者は「まさかこの歳で子供ができる役をやるなんて」と口を揃えた。久しぶりに体験した「出産」「育児」を振り返って……。

小日向 「70歳で初産」という設定を初めて聞いた時は、あり得ない話だ、ファンタジーだって思いましたよ。正直言えば、そんな年で子供ができるなんて照れくさいなぁって(笑)。それくらい荒唐無稽な設定でしょ。しかもその突拍子もない話を、実際に僕たちが演じなくてはいけない。最初は戸惑いました。「超高齢出産」というテーマが、世間で誤解されないかなという心配もあったしね。ところが、原作のコミックや台本を読むと非常にリアルだった。ごく普通の夫婦の日常があり、出産や子育ての奮闘があり、違和感を抱くこともなかったんですよ。

竹下 不思議なことですが、毎日現場で撮影していくうち、私たちもありえない設定ということは忘れて、初産を迎える普通の夫婦という感覚になっていったんです。現場全体が当たり前のことのように捉えていましたね。

小日向 むしろ僕は、竹下さんと「いかにちゃんと夫婦に見えるか」ということばかり気にしていました。だって竹下景子さんですよ! 僕が劇団にようやく入った頃には、すでにめちゃくちゃ人気だったんですから。

竹下 たまたまこの世界に入ったのが早かっただけですって(笑)。私はこの役を演じるために、髪を染めるのをやめたんです。事情を若い美容師さんに話したら、「僕、その漫画知っていますよ。TSUTAYAの人気漫画コーナーに置いてありましたよ」と言うんです。若い方にそんなに人気なら、「何だこれは!」と言われないように、ますます頑張らなきゃって思いました。現場には、生まれてまもない赤ちゃんから幼稚園児まで、私たちの娘である「みらいちゃん」を演じる子たちが沢山来てくれていました。最初はとにかく赤ちゃんに毎日触れられるのが、嬉しくて嬉しくて。

小日向 今回この作品を撮影するにはまずそれが楽しみで。僕らは赤ちゃんの取りあいもしてね。僕が抱っこする、私が抱っこするって。スタッフさんがすぐ赤ちゃんを抱っこしちゃうんだけど、おい、俺に抱かせてくれよ!って。子供の顔を見ていると、つい芝居を忘れちゃう。初めて離乳食をパクパクって食べたときも、芝居を超えて感動しちゃって。お風呂にいれるシーンも本当に嬉しかったですね。

竹下 お風呂はこっちも緊張したんですけど、あくびなんかしてくれて。リラックスしてるんだ、喜んでるんだとか思うと幸せな気持ちになって。育児って時代ごとにどんどん進化するから、哺乳瓶一つとっても全然違うのよね。でもミルクを初めて赤ちゃんに飲ませる時、哺乳瓶を口元に持っていくと、チョ、チョって吸うあの感じ。あ、うちの子もそうだったわって。そこは三十数年経っても変わらないんだわ、って不意にじーんとしました。

小日向 僕自身はまだ劇団にいた頃に長男が生まれたんだけど、新生児室のガラス越しに生まれ順に並ぶ赤ちゃんを見たら、本当に可愛くてねえ。ずっと見ていたいって思った。万が一ケガなんかして役者ができなくなったら、俺ここで働こうって思ったくらい。だから出産のシーンも本当に感動しちゃってね……。赤ちゃんってやっぱりすごいんだなぁと。持っているパワーや、人に与える感情や、無償の愛。本当に赤ちゃんに救われましたね。

竹下 生命の奇跡や子供の愛しさには、何歳になっても本当に感動してしまうんですね。偶然が重なり合って命を授かって、人が生まれて育っていく。そのプロセスの中にはいろんな人たちの差し伸べてくれる手がある。ああ私たちもそうやって生きてきたのかしら、そんなことを日々感じながら演じていたら……、あぁ、思い出してまた涙が出てきちゃった……。

小日向 はっはっはー!

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