CT検診に潜むリスク、高齢者にコレステロール降下薬は不要 国を破綻させる「ムダな医療」

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CT大国

 ここまで「薬」について述べてきたが、「Choosing Wisely」では、検査についても具体例が挙げられている。

〈肺がんのCT検診は頻繁に行わない〉

〈腰痛では、症状が出て6週間以内の画像検査は不要〉

 がんの早期発見が叫ばれる昨今。がん検診には、市区町村が行う「対策型検診」と、民間機関が行う「任意型検診」がある。前者は無料、後者はいわゆる人間ドックでこちらは自己負担だが、医療保険から補助が出るケースも多い。肺がんの検診で国が推奨しているのは、レントゲン検査、または喀痰(かくたん)細胞診であるが、前者、後者共にCT検診も少なからず行われている。レントゲン、CT共に放射線を当てる検診であることは広く知られるが、

「とりわけCTによる被曝リスクは考慮すべきです」

 とは、『日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』の著者、近藤慎太郎医師。

「これを受け続けたことによって白血病などのリスクが上がっては元も子もない。リスクと利益を考慮すれば、非喫煙者は少なくとも50歳未満まで、CT検査を受けることを避けた方が良いでしょう」

がん検診の大罪』の著者で、新潟大学の岡田正彦名誉教授も踏み込んで言う。

「レントゲンによる胸部検査で、3年間で6回検査を受けた人と、1回しか受けていない人とを追跡調査し、比べた場合、6回の群の方が肺がんで亡くなった人が約1・4倍多かったという結果が出ています。これは放射線被曝により、医療行為でがんが出来てしまった、いわゆる『二次がん』である可能性もある。CTはレントゲンよりも20倍から千倍も放射線量は高い。これを検診として行う場合は、十分その損得を考えて行うべきです。健康な人、そして非喫煙者が挙(こぞ)って受ける検査ではないことは言うまでもありません」

 がん検診でさえこれだから、まして腰痛を訴える患者に、「念のため」とすぐにレントゲンやCTを撮るなどもっての外と言うのだ。

「最近では、人間ドックでも、CTで内臓脂肪を測るのが人気だとか。画像で見られるので、受けた人が自慢気に周りに見せたりしますが、内臓脂肪ならお腹回りをメジャーで測れば十分。CTを使うなんてとんでもない間違いだと思います」(同)

 日本は世界一の「CT大国」。人口100万人当たりの保有台数は、OECD加盟国平均の4倍にもなる。だからこそ、過剰な検査が行われるのか。

 これらの検査にも、薬にも更なる「無駄」はもちろんある。その他は次回に譲る。

 改めて、こうした過剰医療はなぜ起こるのか。東光会七条診療所の小泉俊三所長が前回で述べた「防衛医療」「患者からのリクエスト」に加えて、総合診療医で群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春医師は、

「日本の医療制度は、外来診療において、出来高払いの支払い制度を取っています。つまり、医療介入を行えば行うほど利益が出るのです。また、製薬会社、検査会社からは、薬を使いたくなる、検査をしたくなる、魅惑的なプロモーションが行われます。更に、医師には医療や検査を出来るだけやってみたい、データを取りたいという“アカデミック・インタレスト”も働く。あるいは、最新のエビデンスをフォローするのではなく、これまで先輩がやってきた処方をそのまま続けていく『経験主義』に囚われている医師もいます……」

 複合的な問題にメスを入れないと解決は難しい、と述べる。その無駄な1錠の薬、ひとつの検査が積み重なって医療崩壊を招く――。これらがなかりせば、2億円の薬も「安いものだ」と思えるはずなのであるが。

2020年4月3日掲載

特集「国を破綻させる『ムダな医療』前篇」より

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