【コロナ禍】10分に1人が死亡しているイラン 「反米」と「イスラム」が招いた惨状

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金曜礼拝を続けるモスク

 だが、この時点で、イラン政府に本当の危機意識があったかどうかは疑わしい。毎日新聞が2月5日に掲載した記事「新型肺炎 中東路線、運休続々」は、《産油国イラクでは多くの中国人が国内の油田で働いている》と指摘している。

 状況が激変したのは2月19日。イラン保健省は「テヘラン近郊の都市コムで、高齢者2人が新型コロナウイルスに感染し、死亡した」ことを明らかにした。

 中東で初の死亡ケースが、イランで発生した瞬間だった。さらに2月24日にはバーレーン、クウェート、アフガニスタンの3か国が国内初となる感染の確認を発表したが、感染者の全員はイラン人か、イランの滞在歴があった。

 2月24日は、イラン保健省の男性次官が新型コロナに関する記者会見を開催した日でもある。男性次官が何度も汗をふいたり、激しく咳き込んだりする様子がテレビカメラに収められた。

 後に次官はコロナウイルスに感染していたことが発覚した。特に日本のテレビ局が映像を何度も流したため、鮮明な記憶をお持ちの方もおられるだろう。

 2月25日までにイランの死者は15人に達し、当時は中国に次ぐ死者数だった。日本の一部メディアは「死亡者の中には商用で中国に渡航歴のあるイラン人が含まれている」と報じた。

 世界的なパンデミックが起きたのだから、イランで感染者や死亡者が出たこと自体を非難するわけにはいかないだろう。問題は、なぜイランは感染拡大を防止できなかったか、だ。

 どのような背景から「10分間に1人」が新型コロナで死亡するような状況になったのか、中東研究家の佐々木良昭氏に取材した。

「イスラム教は毎週金曜に近くのモスクで礼拝することを定めています。もちろん濃厚接触の危険がありますから、例えばエジプトはモスクの閉鎖を決めました。ところが神学者などが猛反発し、完全に禁止することはできないようです。イランも表向きはモスクや聖廟の閉鎖を発表していますが、やはり徹底できていない可能性は高いのです。ちなみに聖廟には聖者や賢者の遺体が棺に入って安置されています。人々は棺にキスをするため、不特定多数の人々が間接キスをしていることになります」

 2月21日には、国会議員の選挙が行われた。時事通信が25日に報じた「イラン、新型ウイルス感染拡大新たな火種 市民に不満、政府は批判警戒」は、選挙の投票率が低下しないよう、政府が新型コロナウイルスの情報開示に消極的だった可能性を指摘している。

「新型コロナの問題で、イラン政府は正確な情報を公表していません。死因を正確に特定しているかさえ疑わなければならないレベルです。イランは経済制裁で日常的な薬品も不足しています。ウイルスを特定するPCR検査も、重症者に対する医療体制も、共に脆弱でしょう。そんな現状で情報開示に力を入れると、『現政権がアメリカとの関係を修復できないのが原因だ』と批判される可能性があります。いつ反政府運動に転化してもおかしくないため、新型コロナ対策に及び腰になってしまうのです」(同・佐々木氏)

 ドナルド・トランプ大統領(72)は2月29日、「イランが支援を求めれば、応じる用意がある」と発言した。

 これに対して3月2日、イラン外務省の報道官が「裏に政治的な動機が隠されている」と決めつけ、「支援は必要ない」と拒否した。

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