「少年法18歳引き下げ」は見送りに 投票権はあるのに罪を犯しても保護される不条理

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「少年法」18歳引き下げはこうして潰された(1/2)

「大人」とは何だろうか。親の監護から離れ、自由に意思決定が出来る代わりに、自らの行動に責任を持つ。が、世にはこんな理屈もわからない人たちがいて、少年法の引き下げを潰した。投票権はあるのに罪を犯しても保護。残ったのは許しがたい矛盾と不条理である。

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 落ち度のない若者が殺された。

 2008年のことである。被害者は当時、24歳。銀行に勤め、交際している女性がいた。結婚も考えていた。

 犯人は19歳の「少年」だった。軽トラックに乗って時速70~80キロまで加速し、「獲物」を物色。たまたま目に付いた被害者を撥ね飛ばした。自分が怪我をしないように、わざと助手席付近でぶつけるよう、ハンドル操作をした上で。

 法廷でその「動機」が明らかになる。犯人は日頃、父親から叱責を受け、鬱憤が溜まっていた。仕返しをしてやろう、人を殺せば父親を困らせることが出来る……と考え、犯行に及んだのだという。捜査では「知らない人だから死んでもかまわない」、法廷でも「少年法があるからすぐに出てこられる」「出所したらまたやってやる。大きなことをやってやる」と言い放った。弁護人に殴りかかろうとするなど、2度に亘って暴れ、退廷処分も受けている。

 この男に下された判決は、懲役5~10年の不定期刑。制度上はわずか2年弱での仮出所が可能である。当時、新聞各紙も大きく取り上げたが、男の実名は明らかにされていない。いずれも「少年法」が男を手厚く保護したゆえ、である。

 罪と罰の絶望的な不均衡。こうした矛盾を解消する絶好の機会があった。この5年来、議論されてきた「少年法」適用年齢の20歳から18歳未満への引き下げである。

 被害者の母、澤田美代子さんが言う。

「刑を知らされた時には、絶望的な気持ちでいっぱいになりました。このような思いをする人を出さないためにも、少年法の適用年齢は引き下げるべきだと思いますし、そうなるはずだと思っていましたが……」

 引き下げは見送りになった。その「主犯」は誰で、「理由」は何だったのか。ここに至る経緯を記録しておこう。

「動きが生まれたのは2015年のことでした」

 とは、さる法務省関係者である。

「この年、川崎で中学1年生が3人の『少年』たちに刃物で刺されて殺される事件が起きました。主犯格は当時18歳。被害者の男の子は、2月の多摩川を泳がされ、河川敷で集団リンチを受けた挙句、極寒の空の下に放置された。あまりに凄惨な事件ですが、例によって、加害者は少年法で守られた。これに世論が沸騰。自民党でも当時、政調会長だった稲田朋美議員が改正に言及し、世論調査でも8割強が『賛成』との結果が出たのです」

「大人」の定義について、世間の捉え方も変わってきていた。公職選挙法が改正されて2016年から18歳で選挙の投票が出来るようになった。民法も改正され、2年後の2022年から、成人は18歳となる。

 法務省関係者が続ける。

「成年年齢が引き下げられると、『少年法』で『少年』の定義をこれまで通り、20歳未満としておくことの整合性が取れなくなるのです。そもそも、『少年』が罪を犯した場合、刑事処分でなく、少年院に送ったり、保護観察にしたりできるのは、彼らの自律的な判断能力が不十分と見なされ、他者に監護される存在であるから。18歳以上が成人で『自律的な主体』となれば、18~19歳について、保護する前提が失われてしまうのです」

 国民の常識的な感覚も同じであろう。成年年齢引き下げが施行されれば、理論上は18歳で医師免許や公認会計士の資格が取得可能になる。人の生命や財産を守る者が、罪を犯した時だけ「少年」であることなど許されまい。更には裁判員になる資格も得られるが、人を裁く者が、自らは法廷から逃れられるという矛盾を認める向きがどこにいるだろうか。

「加えて、匿名報道と不定期刑の問題です」

 と法務省関係者。

「少年法は61条で、本人と推知できるような報道を禁じている。また、52条では、少年を有期の懲役・禁錮刑にする場合は15年が上限。成人のように『懲役〇年』と定めるのではなく、『〇~〇年』と短期と長期の期間を定める『不定期刑』にする、との規定がある。制度上は短期の3分の1の期間での仮釈放も可能です」

 18歳以上が成人となるのに、なぜ少年法ではこうした寛大すぎる措置が残るのか。説明不能な矛盾である。

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