松岡敬(同志社大学学長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

国内 社会 週刊新潮 2020年2月13日号掲載

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「新島塾」と「教育寮」

佐藤 ちょうど今、受験シーズンですが、文科省が導入しようとした新テストが頓挫しましたね。

松岡 文科省が目指すところはわかりますが、これからの1年であの大きな仕組みを練り直せるのか、不安はありますね。

佐藤 私はもう、練り直すのではなく、先送りして、結局、国公立大学は2次試験で対応する形で落ち着くんじゃないかと思っています。でもそうなると国公立大学間の差がぐんと開いてしまう。2次試験の作問がちゃんとできる東京大学や京都大学などと、作問できない大学の差がどんどん広がる。問題が作れなければ、学生をちゃんと見極められませんから。

松岡 そこはやはり記述式になるわけで、私も記述式はとても重要だと思っています。数学の採点にずっと関わってきましたが、記述式は論理的な思考を全て見ることができます。なぜその答えに到達したかがわかる。そしてもう一つ、思わぬ解き方にも出会います。解は一つでも解き方は一つではない。それも見ることができるのが記述式です。だから記述式は、その大学でその学生がきちんと学んでいける学力の保証になります。

佐藤 どこから教育すればいいのか、はっきりしますからね。

松岡 だから私たちも作問、採点には長い時間をかけて、丁寧に見ています。

佐藤 作問力は、同志社大学など難関私立大学には死活的に重要です。現状では京都大学と同志社に受かったら、100%京大に行きますよね。そうすると京大のすべり止めになるリスクがある。京大を落ちた学生ばかりだったら、大学は沈滞した雰囲気になります。だから京大に合格しても同志社には落ちる学生をどのくらい作れるかが重要になってくる。同志社用の勉強を一定期間はやらないと受からないようにしなくてはならないわけです。そうすると第1志望で入ってくる学生が増えてきます。それは早稲田も慶応も同じです。だから作問に癖がある。

松岡 一方で、大学としては、不本意ながら入学してきた学生にも、自己再生する能力を身に付けていってもらいたい。それはこれから社会に出て生き抜いていく上にも必要です。私たちはまずそのチャンスを作ってあげたい。

佐藤 こうした問題を解決するために、いくつもの画期的な制度を作ったわけですね。

松岡 同志社は2025年に創立150周年を迎えます。そこを目標に「同志社大学ビジョン2025」を打ち立てました。大学が本来あるべき姿を見せていきたい。

佐藤 その一つが「リーダー養成」ですね。

松岡 これまでの偏差値教育の中で、自分自身をしっかり伸ばしていく機会を得られなかった学生たちをちゃんと引き上げていくには、柔軟な学びの場を作っていくことが必要です。その一つとして創立者・新島襄(じょう)の名前を冠した「新島塾」を作りました。これには佐藤さんにも大きく関わっていただいた。

佐藤 全学の学生から最大25名を選抜して、期間は2年次から2年間。毎年秋には3泊4日の合宿もある。こうしたリーダー養成のプログラムは総合大学として初めての試みでしょう。

松岡 昨年の第1回は、8学部から17名になりました。合宿は9月7日から10日までで、「2040年頃の時代でも通用する普遍的な学力は何かを知り、それをいかに獲得すればいいか」がテーマでした。

佐藤 私はそこでユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』をテキストに講義をしました。

松岡 合宿の前半2日間だけご一緒させていただきましたが、学生たちを見ていて、こうした場をどんどん提供していかないといけないと強く思いましたね。講義だけでなく、夕食を一緒に摂ったり、寝る前にちょっと懇親の場を持ったり、そこからも彼らはいろいろなことを吸収していきますね。

佐藤 学生の意識はかなり高いですよ。私は外務省でロシア語の研修指導官だったことがありますが、1人当たり3千万円ほどお金をかける。それでも本省の1年半と在外勤務の2年を経て、満足のいくレベルに仕上がるのは約2割です。だいたい組織で人を絞っていくと2割くらいになるのですが、それに比べると格段にいい感じです。

松岡 手を挙げたからといって、すぐ入れるわけではないですからね。

佐藤 成績や要領がいい学生だけを集めてもよくないし、教授推薦で可愛がられている学生だけでも面白くない。その辺はファジー(曖昧)にしているんですよね。

松岡 ええ。

佐藤 私はこれから始まる「教育寮」もすごく可能性があると思うんです。

松岡 ようやく2021年の9月に完成します。

佐藤 これは経済的支援が必要な学生を入れる経済寮ではなくて、教育のための寮ですよね。

松岡 そうです。学生同士が議論し、刺激を与え合いながら、共に学び共に生活する。生活そのものが学ぶ場である、という考え方がいまの世の中からは消えつつあります。それを復興させていきたい。

佐藤 それはいいですね。

松岡 同志社にはかつて新島襄が留学した大学の名前の付いた「アーモスト館」という寮がありました。その伝統を後世に伝えていく意味もあります。

佐藤 神学部にも、壮図(そうと)寮や此春(ししゅん)寮といった寮がありましたね。それらも元は教育寮だったと言っていい。戦前は、神学部でキリスト教を学ぶ学生はほとんど親から勘当されていました。だから、生活を含めた全体の面倒を学校が見る必要がありました。

松岡 そうですね。

佐藤 教育寮はどのくらいの規模になるのですか。

松岡 定員は180名です。彼らはここで2年間を過ごします。また留学生も入ってもらいます。

佐藤 志願制なんですか。

松岡 選考方法はまだ検討中で、入りたいと言ってすぐ入れるようになるかはわかりません。競争率は高くなるかもしれない。

佐藤 入寮したら学生たちにはアウトプットも求めて、論文を書かせるなど、ビシビシ厳しめにやったほうがいいと思いますよ(笑)。

松岡 2年間で何をするかはこれからの課題です。基本は1年と2年が交じるような形にしたいと思っています。

佐藤 やっぱり鉄は熱いうちに打てで、1、2年生のうちに体験させたほうがいい。学生たちは、みんなでツルむのは、何でも楽しいんですよ。麻雀でもテニスでも、街をフラつくことだって楽しい。それが勉強である人たちもいて、そういう集団をいくつ作れるかが大事だと思います。同志社にはラーニング・コモンズ(学びの共有空間)がありますね。そこには勉強するのが楽しいというグループが集まっている。彼らは伸びていくな、と思いますね。

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