松岡敬(同志社大学学長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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  大学はいま改革の只中にある。来年度の大学入試改革は先送りされたが、少子化の中、国公立大学を中心に再編統合が進められ、一方、私学は躍起になって独自色を出そうとしている。関西の名門・同志社大学は、他大学に先駆けて数々の改革を進めてきた。彼らが目指すのはどんな大学か。

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佐藤 来月いっぱいで、学長としての任期を終えられますね。たいへんお疲れ様でした。この4年間、松岡学長は様々な仕組みを次々と導入され、同志社大学を大きく変えてこられました。

松岡 ОBの佐藤さんにも特別顧問になっていただき、いろいろとお手伝いしていただいた。ありがとうございます。

佐藤 以前から自身が学んだ神学部では教えていましたが、大学の中がちょっとガタガタしていると思っていたんです。そこに松岡学長が出てこられた。

松岡 そうでしたか。

佐藤 今回は改めて、松岡学長がなぜ今、大学改革をやらねばならなかったのか、その動機からうかがいたいと思います。

松岡 平成の30年間で私が強く感じたのは、大学に入ってくる若者たちに将来の夢がちゃんとあるのだろうか、それぞれ自分の志を持っているのだろうか、という疑問でした。私が見るところ、それらが非常に希薄なのです。やはりこうなったのは、偏差値教育で育ったことが大きいと思います。あなたの偏差値だとこの大学なら受かりますよ、と言われ、それを基準に大学や学部を選んで入学してくる学生ばかりになった。

佐藤 偏差値に振り回されているわけです。

松岡 確か佐藤さんが大学に入学した年から、共通一次試験がスタートしたのですよね。

佐藤 ええ、1979年です。

松岡 それから10年後に平成になったわけですが、その10年間は共通一次試験によって何が起きているのか、まだ判然としていなかったと思います。それが平成に入って、偏差値教育の弊害が大きく浮き彫りになってきた。

佐藤 数多くの中高一貫校ができて、その中には特進クラス、スーパー特進クラスが設置されました。それらは他のクラスとは交流がなく、部活も事実上禁止。午後3時に授業が終わると、予備校と連携して毎日夜9時まで補習をやり、連日試験をやっては順位を壁に貼り出す。そんな学校からは、学生が勉強嫌いになって入学してきます。

松岡 そうですね。もう新しい何かに挑戦しようという力が残っていない。

佐藤 偏差値には、受験戦争を煽り立て、上へ上へと向かわせる「加熱」という機能がありますが、この偏差値だとこの学校は無理だからやめろ、と言って諦めさせる「冷却」という面もある。今の子供たちはこれを繰り返しています。そんな話をしたら、松岡学長は「熱して冷やして、焼きを入れると、確かによく切れるようになるけれども脆くなる。人間も金属も同じだな」とおっしゃった。そのお話は、いろいろなところで紹介させてもらっています。

松岡 問題は他にもあります。それは、教師に、人を育てていきたいという気持ちがどんどん少なくなっていることです。進学のために中高一貫校が次々とできて、その中で進学クラスを分けてしまうのは、教育という観点からすれば異常なことですよ。そうした教育者側の問題もあって、悪循環に陥っている。

佐藤 大学の先生だって、そこが終着点だと思ってしまう人がいますからね。母校の先生になったところで、もう教育も研究も一所懸命にはやらない。そうすると学生も意欲をなくす。

松岡 だから次の時代を支える人たちが本当に大学から生まれてくるのか、すごく不安を感じます。大学は、次代を担う人材を育てるため何をすべきか、真剣に考える時期に来ているのだと思います。

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