【前橋スナック銃乱射】矢野治死刑囚が自死 殺人の獄中告白は「黒幕への復讐」のため

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警察が把握していない2件の殺人事件

 本誌に送られてきた「殺人告白手紙」にもそうした胸中は見え隠れしていた。が、そこには別の「告白の理由」も記されていた。曰く、被害者が毎晩のように夢枕に立つ、だから早く、

〈穴から出してやって頂きたくお願いを申し上げます〉

 と――。また、矢野は関係者にこうも語っていた。

「穴を掘れば、“品物”が二つ出る」

 矢野の「告白」を受けて取材を始めた本誌は「穴」を掘った当人、矢野睦会元組員の結城実氏(仮名)に辿りつき、実際に死体遺棄に関わったとの証言を引き出した。矢野の「告白」と結城氏の証言によると、警察が把握していない2件の殺人事件は以下のような概要だった。

「龍がロクった(死んだ)。死体を始末してくれ」

 結城氏が矢野からそう依頼されたのは1998年春頃のことだった。“龍”とは、稼業名「龍一成」、本名は斎藤衛という、住吉会系の企業舎弟のこと。「オレンジ共済事件」の際、政界にカネをばら撒いた「永田町の黒幕」としての顔も持つ男である。その斎藤に対し、矢野は1億円ほどを貸していたが、そのうち8600万円が焦げ付いたことでトラブルに発展。矢野は知り合いの組事務所の檻に斎藤を監禁した上、ネクタイで首を絞めて殺害したのだ。死体の始末を依頼された結城氏は埼玉県内の山林に用意してあった「穴」に斎藤の遺体を埋めた。

 結城氏が矢野から頼まれて死体を始末するのはこれが初めてではなかった。「斎藤事件」の前年にも、不動産業者の津川静夫さん(失踪時60歳)の遺体を神奈川県伊勢原市の山中に遺棄していた。津川さんの殺害を矢野に相談したのは、小田急線伊勢原駅前の再開発を巡り、津川さんの土地を奪おうとした住吉会系組織の幹部。矢野はこの「仕事」を別の組長に依頼し、津川さんはその配下の組員に殺害されたのである。

 矢野の「告白」や結城氏の証言をもとにした本誌記事、〈永田町の黒幕を埋めた「死刑囚」の告白〉が16年2月に世に出ると、それまで消極的だった警視庁がようやく重い腰を上げ、捜査を開始した。16年4月に津川さん、11月に斎藤の遺体が発見され、17年4月に矢野は殺人容疑で逮捕された。

 しかし、公判で矢野は一転して無罪を主張。18年に下された判決で東京地裁は、矢野の「殺人告白」の目的は、「死刑執行の引き延ばし」だとして、無罪を言い渡した。

「無罪が言い渡され、公判が終わってしまったことは矢野にとっては誤算だった。それによって、前橋事件に黒幕がいることを暴露する場が失われてしまったからです」(先の矢野の知人)

 矢野がぶつかった「壁」はそれだけではなかった。

(2)へつづく

週刊新潮 2020年2月6日号掲載

特集「闇に葬られた殺人を獄中告白! 自殺の『前橋スナック銃乱射』死刑囚から届いた『最後の手紙』」より

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