資本欠損「LINE」も傘下に… さらに火の車「ソフトバンク」のヤバい節税術

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 2018年12月のソフトバンク株式会社上場に始まって、19年9月、傘下のヤフー(現ZHD)によるZOZOへのTOB、11月に発表されたソフトバンクグループ(SBG)「真っ赤っか」決算、そして、同月のZHDとLINEの経営統合と、ここ1年に亘って、SBGは世間の耳目を集め続けた。新年を迎え、会計界のレジェンド・細野祐二氏がそのヤバい節税術を解説。ちょっと難しけれど絶対に為になる論考である。

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1.SBGという本丸に立ち入る前に、2019年にSBGが傘下に収めたLINEとZOZOの知られざる内情についての分析から始めてみたい。

(1)実態は連結資本欠損会社だった「LINE」

 ヤフー(現ZHD)とLINEの経営統合は、ZHDの親会社であるソフトバンク側がかねてより持ち掛けていたものの、LINEの親会社であるNAVERが断り続けてきたという経緯がある。それが今年の夏ころからNAVERの風向きが変わり、今回一転、合意に至った。LINEの懐具合が大きく変わったからである。

 LINEは対話アプリの利用者が8千万人を超える国内最大のスマホ向けメッセンジャーアプリ運営会社である。LINEは、東証1部上場企業ではあるものの、韓国のNAVERが株式の72.64%を所有するNAVERの完全支配子会社でもある。ここで、NAVERは韓国内最大のインターネット検索ポータルサイトを運営しており、韓国KOSDAQ上場企業である。

 LINEの売上高はここ数年順調に伸びているものの、その損益状況は芳しくない。LINEの当期純損益は、株式が上場された2016年12月期こそ71億円の当期純利益を上げたものの、その後、2017年12月期は82億円の当期純損失、2018年12月期が58億円の当期純損失と続き、2019年9月第3四半期に至ってはなんと339億円の当期純損失を出してしまった。会社の2019年9月第3四半期末の連結利益剰余金はマイナス394億円となっており、LINEは連結資本欠損会社なのである。

 この会社が営業キャッシュフローをそれなりに上げていながらも当期純損益が悪いのは、主として、損失がキャッシュアウトしない(=関連会社の営業キャッシュフローは連結されない)関連会社の業績が悪いからである。ところが、2019年9月第3四半期には、頼みの綱の営業キャッシュフロー自体がマイナス91億円と赤字転落した。悪いのは関連会社だけではなく、本体の業績そのものが立ち行かなくなってきたのである。

 LINEの業績不振の原因は、一般的には、会社が鋭意育成中のスマホ決済の利用者と加盟店の開拓費用が先行したためということになっている。会社は、2018年にユーロ円建社債を1421億円発行して、これら開発費用の資金手当てをしたが、2019年には、わずか9カ月で340億円もの損失を出してしまった。いくら金をつぎ込んでも一向に好転しないスマホ市場を前にして、LINEは、茫然と、乏しくなった金庫の底を見つめていたに違いないのである。

 追い詰められたLINEに対して、ソフトバンク側より破格の経営統合案が出された。この経営統合案は、LINE株式の公開買付と株式交換を骨子としている。ここで、NAVERはLINEの発行済株式の72.64%を所有しており、LINEは本件経営統合後非公開会社化することになっている。統合会社は、LINE株式の残り27.36%(=100%-LINE持株72.64%)を、公開買付の方法により、1株5380円で日米の証券市場で買い取る。1株5380円で計算するとLINEの時価総額は約1兆3000億円となり、NAVERの持株評価は約9400億円となる。

 経営統合案によれば、統合会社に対する持分はソフトバンク側とNAVER側で均等とするため、NAVERが持つLINE株の内50%を超過する部分(22.64%=72.64%-50%)は、LINEの新株発行により、ZHD株式と交換される。株式交換比率は、LINE株1株に対してZHD株11.75株とされている。ここで、LINEはTOB価格で1株5380円と評価されているので、ZHD株の評価は1株458円(=@5380円÷11.75)で固定され、これにZHDの発行済株式数を乗じると、ZHDの時価総額は2兆2000億円と計算される。NAVERはLINE株の22.64%と交換にZHD株2900億円相当を手にいれることができる。

 LINEは資本欠損の赤字垂れ流し企業で、しかも、生き残りのためにはスマホ決済拡販のために巨額の資金を要する。あのまま(=ヤフーとの統合計画がないまま)事態が推移していれば、LINEの株価は、決算の大幅赤字と資金繰りの逼迫により、統合計画発表前の4000円台から暴落していたに違いないのである。ソフトバンク側はそのLINEに1兆3000億円もの時価評価を付けてくれた。まともな事業評価をする限り、とてもではないがLINEに1兆円を超える時価評価など出せるわけがない。ヤフーとLINEの統合計画は、ソフトバンク側が窮地のNAVER側に破格の大判振る舞いをした形になっている。

(2)実際の資金繰りは火の車だった「ZOZO」

 ZOZOはかねてより無借金経営で、資金繰りの問題など全くない財務優良会社であったところ、2018年におけるZOZOスーツの販売開始と前澤友作・前代表取締役社長の自社株売却を契機として、あれよあれよという間に資金破綻を起こし、2019年9月、ヤフーに身売りすることになった。ヤフーは、2019年9月30日から11月13日までの期間、ZOZO株をTOB(株式公開買付)により買付け、ZOZOの発行済株式の50.1%を総額4千億円で買収した。公開買付価格は1株2620円である。ヤフーは、2019年11月19日、買収資金4千億円を銀行借入により調達した。

 ZOZOの前澤前社長は、2018年5月23日、所有するZOZO株の内6百万株をZOZOに230億円で売却した。ZOZOの取得単価は1株3843円である。ZOZOは、前澤前社長から自社株を取得するために、同年5月、三井住友銀行より240億円の短期銀行借入を行い、長く続けた無借金経営から脱落することになった。ヤフーによる買収計画発表前のZOZOの株価は2000円台にまで暴落していたので、ZOZOは、前澤前社長から買わされた自社株に110億円程度の含み損を抱えていたのである。当然のことながら、ZOZOがここで借りた240億円の銀行借入は、1年後の2019年5月に返済期日がやってくる。

 一方、ZOZOの資金構造は、2018年3月期の決算期末直前、それ以前の資金余剰から資金不足に大転換することとなった。ZOZOは「つけ払いサービス」と「自社ブランド製品」の製造により入金サイトが長期化し、売り上げが増えるほど運転資金が売掛金と在庫に滞留してしまい、資金構造がキャッシュアウト先行(サイト負け)に変わってしまったのである。ZOZOは、2018年3月期以降、月額十億円単位の高速で資金が流出していた。

 すなわち、ヤフーによる買収以前のZOZOは、前澤前社長ともども資金繰りが火の車だったわけで、前澤前社長とZOZOが同タイミングで巨額の資金不足に陥った点がZOZOの資金問題を難しくしていた。その絶体絶命のZOZOを、ヤフーが、1株あたり2620円という高値で引き取ってくれた。前澤氏はZOZOの株式の36.76%を持つ筆頭株主で、今回のTOBでその大半をヤフーに売却し、売却額は2500億円近くに上るといわれる。前澤氏はTOB発表日の9月12日付けでZOZOの社長を退任した。

 ヤフーはTOBによりZOZOの発行済株式の過半数を4000億円で買収した。ということは、ヤフーはビジネスモデルと資金繰りが破綻しているZOZOに8千億円もの時価総額を付けてくれたことになる。あのまま(=ヤフーによる買収がないまま)事態が推移すれば、ZOZOの株価は、ビジネスモデルの崩壊と資金繰りの逼迫により、買収発表前の2200円台から暴落していたに違いないのである。ヤフーは窮地のZOZOを救済して、高い買い物をしたことになる。

(3)「孫正義」の狙い

 ZOZOの買収とLINEの経営統合は、統合前のZOZOとLINEが共にビジネスモデルの行き詰まりと資金繰りの逼迫状態にあったものを、SBGが、共に高値で買収したものであることを論証した。両社とも、もう少し時期を後にずらせば、はるかに安い金額で買収できたことと思う。

 では、なぜSBGはあえて9月にZOZOの買収を公表し、なぜ11月18日にLINEの統合を急遽公表して、高値掴みをしたのかということになるが、それは、これらの買収や経営統合の実質的意思決定者は孫正義SBG会長であるところ、買収や経営統合にかかる金はSBGから一切出ていかないからだと思う。孫会長とすれば、自分の懐を一切傷めずに、ZOZOとLINEが手に入るのである。ならば、たかが数千億円程度の高値買付など意に介する必要などないのだろう。

 孫正義SBG会長は、世界のIT産業の覇権に強いこだわりがあり、その中で、ヤフーに対して、

「いつになったら楽天やアマゾンを追い越して世界のEコマースの覇権が握れるのか?」
などと、強い圧力をかけていたことが報道されている。孫会長はソフトバンク帝国の帝王であり、世界有数の絶対的カリスマ経営者でもある。孫正義会長の圧力は、今年の春先より夏にかけて頂点に達し、ヤフーは、

「何をいつまでも眠たいことをやっているのだ。」

 とばかり、孫会長に怒られたというのである。

 そこで、2019年9月、窮地の前澤前ZOZO社長の相談に乗る形で孫会長自らがZOZOの買収を決めた。一方、子会社のソフトバンク(株)が、孫会長の叱咤に応える形で出してきたのがヤフーとLINEの経営統合ということであろう。だから、帝国内の下部組織体であるヤフーやソフトバンク(株)とすれば、帝王の逆鱗に応えてZOZOとLINEが買収できればそれで良いわけで、買収価額は二の次とならざるを得ない。

 ZOZOの買収価格は4000億円である。しかし、この4000億円は、ヤフーが銀行借入で賄うわけで、SBGの懐は一切痛むことがない。LINEの経営統合に要する資金は総額6480億円であるが、このうち、2935億円はZHDの新株発行で賄われる。残りの3545億円は、LINE株の公開買付資金なので現金がいるが、それとて実際に資金を出すのはソフトバンク(株)とNAVERが半々ずつ出すので、結局SBGは一銭の金も出さなくて良い。孫会長は、独立採算子会社に帝王としての圧力をかけ、独立採算子会社の金を使って、帝王自らの懐を傷めることなく、SBGの株主価値なるものを上げることに成功したということになる。

 そうすると、本件では、孫正義会長、SBG,ZOZO,前澤前ZOZO社長、NAVER、LINEの全てが経済的利益を得て満足をすることになるが、この中で、唯一巨額の損失を抱える可能性があるのはZHDだけである。ZHDは、ZOZOの買収により、推定3000憶円超の「のれん」の計上を余儀なくされる。LINEの統合では、推定1兆円の「のれん」が計上される。ZHDの連結資産は、1兆3千億円の「のれん」で“てんこ盛り”となってしまうのである。

 ZOZOの「のれん」とLINEの「のれん」の投下資本利益率は、それぞれ1.97%と0%であり、これらの「のれん」には超過収益性が認められない。ヤフーはZOZOの買収以前は財務内容に全く問題のない超優良会社であった。ZOZOの買収とLINEの経営統合は、ZHDの財政状態計算書に1兆3千億円の不良資産を計上させ、その財務内容を壊滅的に毀損することになると思う。

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