スローガン通り? 矢野「阪神」の躍進を支えた梅野隆太郎と近本光司の「オレがヤル」
ノリにノッた近本
矢野阪神の象徴的存在として、梅野とともにチームに勢いを与えたのが、俊足巧打のドラ1ルーキー・近本光司である。4月20日の巨人戦(甲子園)では、初回にショートへの内野安打を放った直後、二塁ががら空きだと気づくと、迷わず二塁を狙い、悪送球を誘発して一挙三進。“内野安打三塁打”(記録は内野安打と野選、エラー)という珍事を達成した。
さらに全セのトップバッターとして出場した7月13日のオールスター第2戦(同)では、初回にいきなり左越えに先制ソロを放ち、新人では球宴史上初の先頭打者本塁打を記録すると、ノリにノッた。2回の第2打席は右翼線二塁打、3回の第3打席にも右前安打を放ち、1992年の古田敦也(ヤクルト)以来、史上2人目の球宴サイクル安打まで、残るは三塁打となった。
そして、7回2死一塁の第5打席、カウント1-1から高橋礼(ソフトバンク)の直球を一振すると、打球はレフト・秋山翔吾(西武)の頭上を抜けていった。一塁走者の坂本勇人(巨人)は近本に三塁打を記録させるため、「ホームに行かないと」と必死で三塁を回り、11点目のホームイン。二塁を回り、一度は戻りかけた近本も、秋山が打球処理にもたついているのを見ると、再び三塁に向かって走り出した。ショート・源田壮亮(西武)も一瞬ためらった後、ワンバウンドの三塁送球。さらにクロスプレーになった三塁でも、松田宣浩(ソフトバンク)がグラブにボールが入っていないのに、空タッチするといった具合に敵味方協力し合ってサイクル達成をアシストした。これも球宴ならではの珍光景と言えるだろう。
5回の二塁打も含めてルーキーでは球宴史上最多の5打数5安打を記録した近本はMVPを受賞。その後、9月19日のヤクルト戦(同)で、1958年の長嶋茂雄(巨人)を超えるセ・リーグ新人最多のシーズン154安打を達成し、シーズン成績は打率2割7分1厘、159安打、9本塁打、42打点。さらに36盗塁で、新人では2001年の赤星憲広(阪神)以来、2リーグ制後史上2人目の盗塁王に輝いた。
2020年の矢野阪神のスローガンは「It's 勝笑 time! オレがヤル」。実現の成否は、梅野や近本のように明るさいっぱいのプレーで時には笑いを呼びつつ、運をも味方につけて勝利に貢献する選手が一人でも多く現れるかどうかにかかっている。
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