「大戸屋」赤字転落は“値上げ”や“お家騒動”のせいではない 専門家が指摘するもっと深刻な理由

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専門家の分析は?

 では、外食産業の専門家は今回の赤字転落を、どのように観ているのだろうか。フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏が言う。

「都内を中心に展開している『山本のハンバーグ』ですが、店名と同じ『山本のハンバーグ』はご飯と味噌汁がついて内税で1850円と2000円近くになります。それでも多くのお客さんが詰めかけている。つまり消費者にとっては高い1000円もあれば、安い2000円もあるというわけです」

 大戸屋の公式サイトには、実に多くの定食が記載されている。ジャンルだけでも「鶏」、「魚」、「野菜」など9つのカテゴリーがあり、期間限定やサイドメニューを除いても定食の数は40種類を超える。

 その中で千葉氏は魚の定食に注目する。通常メニューには6つの定食が掲載されている。最高値は「沖目鯛の醤油麹漬け炭火焼き定食」が税込み1070円。最安値でも「さばの炭火焼き定食」が890円となっている。

「公式サイトの写真には五穀米とみそ汁、魚、ひじきの煮物、大根おろし、漬物が並んでおり、一見すると綺麗にまとまっています。栄養バランスも良さそうです。しかしながら訴求力に乏しいとも言えます。お腹がいっぱいになりたいという層だけでなく、健康志向の消費者にも響いていないでしょう。1070円や890円という価格に問題があるのではなく、消費者に『食べたい!』と思わせる定食になっていないと思われます。これが最大の原因なのです」

 千葉氏によると、経済が豊かになって社会が成熟すると、消費者は「何でもあるレストラン」ではなく「一品勝負の専門店」を求めるようになるという。

「高度成長期の日本人は、品揃えの豊富な店を喜びました。代表例が百貨店の食堂です。そして入店するとメニューを眺めてから注文を決めました。ところが安定成長期を迎えると、昔は『洋食』とひとまとめだったものが、フレンチ、イタリアンと、国別に専門性を求めるようになります。現在は和食でも寿司や天ぷら、イタリアンならパスタやピザと、さらに専門性が高く、“ウリの一品”を持つ店が人気です。消費者は自宅や職場を出る時に『ラーメンにしよう』、『インドカレーをナンで食べよう』と既に決めており、向かう途中で他の店を見ても、よほどのことがない限り、“初志貫徹”します」

 となると、大戸屋を抜本的に立て直すためには安易な値下げよりも、メニューの見直しが効果的だということになる。

「大戸屋本体をドラスティックに改革するのは難しいかもしれません。ならば別ブランドで『魚の定食専門店』や『鶏肉の定食専門店』などに挑戦してみるのは、決して無駄なことではないでしょう。このままでは500円台のコンビニ弁当と、2000円台でも人気の専門店の間に挟まれたままでしっかりとした特徴が打ち出せなくなるかもしれません」(同)

週刊新潮WEB取材班

2019年12月16日掲載

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