「大戸屋」赤字転落は“値上げ”や“お家騒動”のせいではない 専門家が指摘するもっと深刻な理由

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堅い財布の紐

 98年7月、日経ビジネスは「異色企業~大戸屋」という記事を掲載した。冒頭を引用させていただく。

《夕食時になると女性客が行列を作り、メニューを見ながら空席ができるのを待っている。店内も女性客が目立ち、なかには制服姿の女子高生のグループもいる。といってもここはファミリーレストランでもファストフード店でもない。首都圏や関東近県の繁華街を中心に和定食店を直営で展開する大戸屋(東京・豊島区、三森久實社長 ※編集部註:「實」は原文ママ)の渋谷公園通り店での光景である。

 一般に定食屋といえば、サラリーマンや学生などの男性客が肩と肩を寄せ合うようにして食事をするという印象がある。しかし、大戸屋は、そんな印象を払拭し、女性でも気軽に入れるようにした定食屋だ。客の5割以上が女性という店舗も珍しくないという》

 前出の経済担当記者が「この記事では大戸屋の安さを《客単価は700円弱で、ファミリーレストランの1000円弱より安い》と伝えています」と言う。

「98年の記事ですから、もちろんバブルは崩壊しています。とはいえ、まだまだ日本人はお金を持っていたのでしょう。ファミレスの1000円と比較して安いという指摘に時代を感じます。そして2000年代から日本はデフレ経済に直面しますが、大戸屋は業績を維持します。“デフレの勝ち組”と呼ばれたマクドナルドほどではありませんでしたが、経営は好調だったのです」

 今年はバイトテロ問題が大きく報道されたが、同社の経営や消費者の人気を不安視する記事は皆無と言っていい。少なくとも一般紙や経済紙の紙面上は、大戸屋は依然として業績好調であり、赤字転落は“寝耳に水”だったのだ。

 ところがツイッターで調べてみると、全く別の世界が広がっていることが分かる。「大戸屋 700円」と検索してみると、大戸屋の価格設定に批判的な見解がツイートされているのだ。

《ここ数年の大戸屋は酷かったからな。どんどん値上げして量を減らして…そりゃ客は離れるわ(略)税込700円以下のメニュー拡充すべきでは》

《日高屋の生姜焼き定食が700円 しっかり食べれるけど味付けは濃いめ、、近くに大戸屋があるっぽいから次から行こうかと考えたけどメニュー見たら900円代なのね》(註:「代」は原文ママ)

《やよい軒が700円ちょっとでからあげ定食となると大戸屋のらんち850円でミートボールは苦戦も致し方なし》

 100円単位で呻吟している消費者の呟きが、タイムラインにずらりと並ぶ。庶民が持つ財布の紐がどれだけ固いか、改めて認識させられる。

 さらに15年に久実氏が死去し、翌16年に会社側と創業家の対立が表面化した。いわゆるお家騒動だ。会社側トップの窪田健一社長(49)にとっても、久実氏は母方の従兄にあたる。両方とも血縁関係がある故か、互いを強いトー-ンで非難したこともあり、経済メディアを賑わせる結果となった。

 今年10月、創業家は所有する株式のほぼ大半を、居酒屋「甘太郎」などを展開する外食大手のコロワイドに売却。双方の対立は鎮静化したと思った方も少なくなかったのではないか。だからこそ赤字転落が報じられると、「お家騒動の悪影響が、現場にも及んだのだろう」といった推測が飛び交った。

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