無印良品が商品化する「コオロギせんべい」 開発秘話と味を協同開発の准教授に聞く

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食べる研究ではなかった

 第一人者である徳島大に聞いてみた。なぜ、コオロギを食べる研究を?

「いえ、コオロギを使って研究はしていましたが、もともと食べるための研究をしていたわけではありません」

 と言うのは、徳島大の三戸太郎准教授である。専門は発生生物学だという。

「発生生物学とは、卵から生物が発生するとき、どのような遺伝子を持っているのか、発生の仕組みを明らかにして、その進化について考える基礎生物学で、医療への応用もできます。私たちは、その研究モデルとしてコオロギを調べてきました」(同・三戸准教授)

 2010年には、全身の細胞に蛍光タンパク質を組み込み、紫外線を当てると緑色に光るコオロギを作り出すことに成功している。光ることにより、発生段階で細胞がどう動くのか見えるようにしたのだとか。

「食べられることは知っていましたが、食べてみるという発想は全くありませんでした。きっかけはやはり、FAOの報告書が注目されたことです」(同・三戸准教授)

 そこは無印良品と同じだ。とはいえ、現代の日本人で食糧危機を実感している人などいるのだろうか。

「そうですね、世界的視野では現実的な問題ですが、私も含め、日本で差し迫った危機感を感じることはないでしょう。ただ国内においても、気象変動や食料輸出入の安全保障などに左右されずに、食糧を供給できるようになったほうがいい。昆虫食も選択肢のひとつとして考えてもいいと思います。そこで私たちの飼育のノウハウが、社会の役に立てるのではないかと考えました」(同・三戸准教授)

 すでにコオロギ生産のための大学発ベンチャーも立ち上げた。

「私たちが生産しているフタホシコオロギは、国内では沖縄など温かいところにしか棲息していません。基本的に本州にはいませんが、ペットショップでは爬虫類などの餌として売られています。体長は2~3センチ、1匹0・8グラムほどのコオロギですが、現在、乾燥パウダーとしては月産数十キロほど。新しい工場も立ち上げたので、ゆくゆくは月産数百キロにまでできれば」(同・三戸准教授)

 その飼育装置も、最初はクラウドファンディングによって資金が集められた。

「16年に、“フタホシコオロギ食用化プロジェクト”として目標額50万円で資金を募りました。その際に、私たちが食べてもいないのに募集するのは無責任ですから、試食会を開催しました。パスタやたこ焼きに入れてみたり、素揚げも用意しました」(同・三戸准教授)

 気になるお味だが、

「パスタにパウダーを振りかけたり、タコ焼きの生地やトンカツの衣などにパウダーを混ぜたものは、コオロギを食べているという感じはしませんし、香ばしさがあっておいしいですよ。さすがに素揚げは抵抗があって、これは無理だと思いましたが、みんなが『おいしい』と言うので食べてみると、本当においしかった。結果的に一番おいしいのは素揚げでした」(同・三戸准教授)

 そうなのか……。素揚げのように丸ごと食べるならともかく、無印良品の「コオロギせんべい」のように生地に粉末を混ぜただけで、食糧難の解決になるのだろうか。

「いきなり素揚げを食べるのはなかなか難しいでしょう。まずは昆虫を食べるということへの抵抗感をなくすことから始めるべきだと思っています。ですので、無印良品さんの取り組みは有効です。たとえ少量であっても、コオロギパウダーを加えることで、動物性タンパク質が豊富で、ミネラル、ビタミン、不飽和脂肪酸なども補うことができます。私が体験したように、昆虫食への抵抗を乗り越えたときには感動が待っていますよ」(同・三戸准教授)

 ちなみに無印良品の社員が、コオロギを食べた感想は、

「最初にコオロギを食用にすると聞いたときには、驚いたのと同時に、どんな味がするのだろうと見当もつきませんでした。商品化にあたり、コオロギの形状を残したフリーズドライ状のものがあり、こちらは心理的な抵抗がある人もいましたが、パウダー状にすると抵抗感がなくなりました。実際にサンプルを試食してみると、エビのような味で意外と美味しいという声が多かったです」(前出・良品計画広報・サステナビリティ部)

 なんだか食べてみたくなってきた。

週刊新潮WEB取材班

2019年12月10日掲載

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