韓国は米国の“お仕置き”が怖くてGSOMIA延長 今度は中朝との板挟みという自業自得

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中国の威嚇が始まった

――結局、「輸出管理」で納得すれば、韓国はGSOMIAを維持する……。

鈴置: そうは簡単にいかないと思います。GSOMIAを維持すれば、北朝鮮と中国が怒り出すからです。11月22日の定例会見で、中国外交部の報道官は質問に答え、以下のように語っています。

・二国間の協定は地域の平和と安定、ならびに朝鮮半島の平和プロセスに資するものでなければならず、第3者の利益を害さないものでなければならない(the bilateral arrangement between relevant parties should be conducive to regional peace and stability as well as the peace process on the Korean Peninsula, and not harmful to the interests of a third party.)

 「自国の利益を害された」と判断したら、中国は直ちに日韓GSOMIAに反対するからな――との通告です。

 韓国は日本との交渉を優位に進めようと「GSOMIA破棄」を外交カードに使った。しかしそれが寝た子を起こしてしまい、GSOMIAを維持するには、中国の顔色を伺わなくてはならなくなったのです。

 2017年10月末、韓国は中国に「日米韓の軍事同盟は結ばない」という条項をふくむ3つのNO(三不)を約束しています。日韓GSOMIAを軍事同盟の一部と見なせば、中国はいつでも韓国を「約束違反」と攻め立てることができます。

 これまで、中国が「3NO」を盾にGSOMIAを破棄せよと表立って要求した事実は確認されていません。でも、今年8月に「破棄」を日本に通達した後は状況が変わりました。維持すれば、中国の「既得権」を侵すことになるからです。

あがくほどに袋小路に入り込む

 北朝鮮は堂々と「GSOMIAを破棄せよ」と韓国に命じています。もし韓国が「GSOMIAを維持する」と正式に発表したら、韓国イジメを強化するでしょう。

 文在寅政権は「北朝鮮との関係を改善した」ことをウリにしています。それを北朝鮮から否定されたら立場を失います。今でさえ「米国の言いなりになってカネを持って来ない」として対話を拒否されているのですから。

――中朝のイジメが怖くて、GSOMIA維持は難しい。

鈴置: かといって「破棄」を正式に決めれば、米国からどんな「お仕置き」されるか分からない。終了の6時間前の11月22日午後6時になって、GSOMIAを延長したのも米国の脅しに屈したからです。

 韓国はGSOMIAを外交のおもちゃにするうちに、「米日」と「中朝」の間の板挟み状態を自ら悪化させてしまった。袋小路に入り込んだ韓国はもう、動きがとれません。下手に動けば、誰かに殴られるのです。

 韓国はGSOMIAに関し「破棄」とも「維持」ともはっきりさせぬまま、宙ぶらりんの状態を続けて行くと思われます。日本に対しては「破棄しないのだから輸出規制をやめよ」と言い続けるでしょうが。

無能外交が恥ずかしい

――韓国の世論は?

鈴置: 文在寅政権に近いハンギョレは、社説「GSOMIA『条件付き延期』決定、国民に十分に説明せよ」(11月22日、韓国語版)で政府の弱腰と、圧力をかけた米国を批判しました。

・政府の発表は、日本の輸出規制撤回を要求してきた我が国民の水準には達していないとの指摘は避けられない。政府は国民に対し、今回の決定の背景を十分に説明し今後、国民の要求水準に合った交渉をせねばならない。
・政府が最後の瞬間に条件付き延期に転換したのは、米国の圧力があったと見るしかない。米国は韓国民の感じた不快感を深く認識するよう望む。

 保守系紙の朝鮮日報は容赦がありませんでした。11月23日の社説の見出しは「自爆したGSOMIA、無能外交の国が恥ずかしい」(韓国語版)。ポイントは以下です。

・結局、得るモノもなく、一度抜いた刀を鞘に戻しただけだ。日本には何の打撃も与えられなかった。
・文政権は反日カードによって国内政治への視線をそらそうと、GSOMIA破棄を押し通したが、名分を失い進退が窮まった。
・過去3か月間、国論は分裂し残ったのは同盟の毀損だけだ。信頼をなくした韓国との同盟を、米国が修復しようとするかは分からない。

 「反米左派」という路線への批判以前に、自分の行動がもたらす結果も読めない文在寅政権の「無能」ぶりを嘆いたのです。

混乱を起こす勘違い国家

 興味深いのは保守指導者の1人、趙甲済(チョ・カプチェ)氏が11月22日、自身の動画サイトで政府の決定を手放しで歓迎したことです。

 趙甲済氏が文在寅政権に拍手するのは異例のことで、米韓同盟が破壊されなかったことによほど安堵したのでしょう。

 ただ、「保守の称賛」がいつまで続くかは分かりません。脅されれば、文在寅政権は中国や北朝鮮に容易になびくからです。

 朝鮮半島の不安定さも、ここに原因があります。確かに、半島は大陸勢力と海洋勢力がせめぎ合う場で安定しにくい。でも、そこに腰の定まった、ちゃんとした国が存在する限りは、さほど問題は起きません。

 周辺大国を操ろうと無理筋の外交を展開する国が登場した時、混乱が起きるのです。右往左往した結果、自分が一番損をするのですが、半島にはそれを自覚できない人が後を絶たないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月23日掲載

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