金杉恭三(あいおいニッセイ同和損保社長)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

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会社に馴染まない人を求む

佐藤 横並びの保険業界から本当に大きく変わった。では、こうした新しい保険を作っていくにあたり、これからの会社にどんな人材が必要ですか?

金杉 弊社は大手4社の一角と言われていますが、上位3社は財閥系です。私どもはトヨタ自動車や日本生命と親しくはありますが、財閥ではない。そうすると、特色ある個性豊かな仕事をやっていかないと、勝ち目がないんですよ。だから個性豊かな人材に来てもらいたいですね。そして自分で学んで、自分からやってみようとチャレンジする人材が欲しい。ただ、これはどこの企業でもそうでしょう。ですので一つ付け加えると、会社に簡単に馴染まない、と言いますか、おかしいことはおかしい、気がついたら気がついたことをきちんと言う人材が必要だと思っています。

佐藤 なるほど。でもそういう人材には、なかなか健全な愛社精神を持たせるのが難しくはありませんか?

金杉 本人にとって一番のご褒美は、自分の実力が伸びていくことだと思うんです。まずはやりたいことをやらせてみる。それは失敗することが多いから、それを温かく見守る。そして再び挑戦させて成功させる。このプロセスが本人のやり甲斐にも、能力開発にもなっていきますし、愛社精神にもつながっていくと思います。

佐藤 完全に同意します。組織は、人を引き上げてくれる側面が非常にあります。でも、いまそれを忘れている人が多いんじゃないかと思うんですよ。そこで私が心配しているのは、働き方改革のことです。会社の中で専門的なポジションについたり総合職になる人は、若いうちに覚えなければならないことがたくさんある。9時5時ではどんなに一所懸命にやっても処理できないことがありますよね。

金杉 ええ。私どもの会社も働き方改革で早く帰れ、しっかり休めとやっていますが、仕事を通じて部下を鍛え、教育をしていくという点では、その時間が減る。それをどこかで補わなきゃいけない。

佐藤 その通りです。

金杉 時間が減ると、育たない社員が出てきてしまうんですよね。

佐藤 それはその若者たちの将来の可能性を狭めていることにもなります。

金杉 だから物理的に失った教育機会を、何で置き換えるか、そこをしっかり考えていきたいですね。

佐藤 そこが重要です。これを課題としているトップがいる会社と、今の潮流はこうだからと流している会社を比べたら、10年後には大きく違ってきますよ。

金杉 これからの損害保険会社は、世の中にどんなニーズがあるのか、常にアンテナを張っていなければいけないと思っています。だから社員たちには、とにかく現場に出て、社会に潜むリスクを拾ってこいと言っています。今はそこに何かリスクがあるなら、保険として成り立つかどうか、すぐ検討するようにしています。

佐藤 やっぱり企業文化が大きく変わったんですね。

金杉 ここ数年のことですけどね。これからの保険という意味では、自動車保険もそうですし、あるいは私どもは250以上の地方公共団体と連携協定を結んで、何かお手伝いできることがないか、日々模索しているんですね。一例を挙げると、外国人が多く訪れる地域で、病院が外国人の治療をしたけれどもその人が治療費を払わないで帰国してしまったという話があった。それならということで、治療費不払いのための保険を作ったんです。これは昨年度の「内閣府特命担当大臣(地方創生担当)表彰」をいただきました。

佐藤 治療費を払わないのは大問題ですが、ある程度の人数がいれば、一定の確率で不払いは起きる。保険でカバーするのは正しいアプローチだと思います。

金杉 そうすると地域の病院も安心して外国人を受け入れられる。このように地域の人とお話しすると様々な保険のアイデアが湧いてくる。

佐藤 お話をうかがっていて思うのは、損害保険の皆さんは、やっぱりアルゴリズムのプロだということですね。社会の様々な問題を集めて、その解決方法を筋道立てて作って行く。どうでしょう? 書籍として「金杉社長のアルゴリズム思考」という企画は十分成り立つと思いますよ。

金杉 それはうれしいですね。ありがとうございます。

金杉恭三(かなすぎやすぞう) あいおいニッセイ同和損害保険株式会社代表取締役社長
1956年東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。79年、大東京火災海上保険(現あいおいニッセイ同和損保)に入社。2008年あいおい損保執行役員、13年あいおいニッセイ同和損保取締役専務執行役員。16年4月から代表取締役社長に就任した。19年より日本損害保険協会会長も務める。

週刊新潮 2019年11月7日号掲載

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