年金受給年齢は本当に70歳まで繰り下げたほうが得なのか 専門家が解説する損益分岐点

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 厚生労働省は、公的年金の受給開始時期(原則65歳)について、2日の社会保障審議会年金部会で、70歳まで受給時期の開始を繰り下げた場合の試算を初めてまとめ、公表した。

 その試算によると、例えば70歳まで働き年金の受け取りを70歳に遅らせた場合、夫婦世帯では月約33万円となり、現在の年金制度の一般的なケースである、60歳で退職、65歳で受給開始の月約22万円より、10万円以上も多くなるという。

 年金の受給開始年齢を巡っては、今年4月に、財務省が諮問機関(財政制度等審議会)に「年金支給年齢を65歳から68歳に引き上げる」と提案しており、安倍首相も9月14日の総裁選の討論会で、70歳を超える選択もできる制度改正について「3年で断行したい」と語った。

 もともとは60歳支給だった公的年金。それが65歳支給になり、男性は2025年までに、女性は2030年までに完全に65歳支給になる。つまり現在、上がっている最中にもかかわらず、さらに引き上げの話が出てきている、ということになる。もはや、年金なんて幻なのではないか、と思うような先送りぶりである。

 知っている方がほとんどだとは思うが、現在の年金制度では65歳の前後5年間で、本人が、受給時期を選ぶことが出来る。そして、冒頭の厚労省の試算でも分かるように、選ぶ時期によって受給額は大きく変わってくるのだ。

 では、いつもらうのが一番得なのか。経済ジャーナリストの荻原博子さんは新著『払ってはいけない』の中で、以下のように解説している。(以下、同書より抜粋)

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受取額はこれだけ変わる

 65歳よりも早くもらい始める「繰り上げ受給」では、1カ月早まるごとに年金額が0・5%減額されます。

 たとえば60歳からもらい始めると、0・5%×12カ月×5年で65歳からもらい始めるよりも30%支給額が減ります。65歳で10万円の年金をもらえる人だとすれば、60歳でもらい始めると月7万円に支給額が減るということです。

 この場合の損益分岐点は、76歳。

 30%の減額は一生続くので、75歳までに死ぬと、60歳からもらい始めたほうがよかったことになり、76歳以上生きれば、65歳からもらっておいたほうがよかったということになります。

 サラリーマンの男性だと、61歳から特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)がありますが、これを60歳に前倒しでもらい始めると、この部分は一生涯6%(0・5%×12カ月)のカットになります。

 65歳より後にもらい始める「繰り下げ受給」の場合、1カ月遅くなるごとに年金額が0・7%ずつ加算されます。

 たとえば、70歳からもらい始めると、0・7%×12カ月×5年で42%支給額が増えます。65歳で月10万円もらう人なら、70歳まで支給を遅らせると、70歳から月14万2千円の年金をもらえます。

 この場合の損益分岐点は、81歳。

 80歳までに死ぬと、65歳からもらい始めたほうがよかったことになり、81歳以上生きれば、70歳からもらったほうがよかったことになります。

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 損益分岐点といっても、もちろん人の寿命は誰にも分からない。人生100年時代とは言っても、身体に支障なく、健康に動ける平均的な年齢を示す「健康寿命」は、男性70・42歳、女性73・62歳(厚生労働省・2010年)だという。
 
 少額でもいいから元気に遊べるうちに年金をもらうか、長生きを見越して繰り下げ受給にするか――。なかなか難しい選択ではあるが、いずれにせよ払ったお金はきっちり回収したいものである。

デイリー新潮編集部

2018年11月9日掲載

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