廃れない「演歌」という文化(中川淳一郎)

エンタメ 週刊新潮 2019年11月7日号掲載

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 子供の時、周りは「演歌ってダセー!」と言っている友人だらけでした。いつか相撲と演歌は廃れるのでは? と思っていましたが、全然なくならない。私はブログを見るというヘンな仕事をこの13年ほど続けているのですが、演歌歌手も続々とブログに参戦し、それなりに人気を博していますし、仕事で全国各地を忙しく回っている様子が報告されています。

 私が小中学生だった頃、ウィークデーの夕方~夜にかけてTBSラジオで「小川哲哉のぶっちぎりラジオ」という番組が放送されていました。同番組の19時台は「有線放送ベスト10」など曜日ごとにジャンル別のベスト10が流されていました。木曜日が「演歌ベスト10」で、この日が実にキツかった。当時の我々の認識では「ダサい」とされていた演歌を1時間聞かされるのですから。

 とはいっても、演歌につきものの浪花節とか男女のドロドロした情念のこもった恋愛事情が好きな方が大勢いることは分かります。

 私は時々地方都市の商工会やら業界団体が主催する定例会に呼ばれ、そこで講師を務めることがあります。

 終了後は宴会に続きカラオケ大会が始まることもあるのですが、同世代や年下で演歌を歌う人が実に多い。商工会の「青年部」だったりもするので、30~50代が参加しており、60代以上の方々の嗜好に合わせて忖度しているわけでもありません。自らのカラオケレパートリーとして、演歌を選んでいるのです。

 正直「なんでこの選曲?」と思うことしきりですが、彼らは目をつぶり、拳を握りしめて演歌を熱唱する。こうした文化は単に自分の周囲には存在しないだけで、広い日本を考えたら演歌というものは未だに幅広い層から支持を受けているのだな、ということがよく分かります。

 しかし、演歌がもたらす世界観とか、1990年代以前の漫画って、今の時代にネットでその歌詞や内容を晒されたら間違いなく炎上しますよね。誰のどの作品かは明言しませんが、4コマ漫画ではこんな描写があるわけです。

 腰ミノをつけた肌の色が黒い2人の男が槍を持ち(しかも左の男はどくろを槍先に刺している)、「オラ山のむこうさ行ってみるだ」「山のむこうさキケンだ。山のむこうさ行くのよくないだ」と言っている。

 この漫画がネットに晒されたら「黒人差別だ!」「少数民族差別だ!」と、作者及び出版社への抗議活動にまで発展するかもしれません。さらにはこうした「オラ」や「行ってみるだ」などのセリフが「東北差別」みたいなことになるかもしれません。

 この漫画は恐らく吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」が流行った1984年に描かれた作品でしょう。よくよく考えると同曲も今は出すのが難しそう。いくら吉さんが青森出身で自虐的に作った、としても。さらには80年代の演歌には「不倫の恋で若い女がジッと耐える」的なものが多い。これも今の時代には受け入れがたい。しかし、これらが作られた時代の風潮を表している、という意味で、絶版・廃盤に追い込むなどはしない方がいいんじゃない、とも思います。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。