タダで都内タワマンに住み続ける「福島原発避難者」を県が提訴、それぞれの言い分

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現実的に厳しい条件

 県側も提訴は望まぬことだったようで、

「5世帯以外の方も経過期間が終わった以上、住宅を見つけて転居していただく必要があり、我々も東京で不動産業者と一緒に20回以上、相談会を開いてきました。しかしながら自主避難者の方から出てくる要望は“23区内で2LDKや3LDKで家賃6万円以内のところ”などといった、現実的には厳しい条件ばかりです。福島県内の復興公営住宅であれば、同じ間取りで2万円弱の物件もありますが……」

 もちろん、5世帯の側にもそれぞれ言い分や事情があろう。そこでオートロックのインターホン越しに話を聴こうとしたが、応答のあった3世帯はそれぞれ、

「弁護士さんにすべてお任せしていますので……」

「すいませんけど、失礼します」

「お断りしまーす」

 といった按配。そうした中、居残ったある男性(58)はこんな胸中を口にした。

「私は元々いわき市で働いていましたが、原発事故後に会社が潰れ、東京に出てきて就いた職場も半年で倒産したんです。その後、避難生活のストレスもあってか、心身のバランスを崩して働けなくなって、障害者手帳を取得しました。いまは貯金を切り崩しながら病院に通い、家賃の安い都営住宅の抽選に応募しているんですけど、8回連続で落ちてしまって。福島に戻っても仕事を見つけられそうにないし、病院が替わるのも不安でね……」

 県との協議については、

「他の方はどうか知りませんが、私は必ず応じていたし、自分の体のことも何度も説明しました。なのに、まさか提訴されるとは夢にも思わなかったよ」

 一方、今年2月に東雲住宅を出て郷里に戻った男性(83)に思いを尋ねると、

「東京に住んでいたときは、買い物に行くにも病院に行くにも交通機関が発達していて便利でしたよ。それでも故郷には、自分が見て育った田畑や山林やお墓もあって、捨てるわけにはいかないでしょ。こちらは高齢者ばかりで、ずいぶん人も減りました。若い人がもっと(東京から)帰ってくれば、昔のような活気ある町になるんじゃないかって期待してるんだけどねぇ」

 自主避難を選択した人々には、今回も「自主的に」地元に戻って復興に力を貸してほしい。それが県側の望みだというが、解決への道のりもまた半ばである。

週刊新潮 2019年10月31日号掲載

ワイド特集「転がる楕円級の行方」より

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